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恋を思って死ねたなら

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5.

「好き、という感情がわかったんだ、カイトさん」
「そうなの?」

 アイスを食べながらソファーへ腰掛けるカイトに近づきながらレンは言う。他のボーカロイド達はマスターと共に買い物に出かけてしまって、居ない。レンもついていこうとしたが、リンに「今日は女の子だけの買い物に行くの!」という半ば強引な言葉に拒否され、しぶしぶついていくのをやめた。
 レンの胸の痛みは日増しに酷くなる。時たま痛くなっていただけの痛みが、今やじくじくとした鈍い痛みが断続的に続くものとなっていた。それでいい、とレンは思う。痛いということは、好きということなのだから、それでいいのだろうと、レンは理解していた。

 カイトの座るソファーの空いた場所へ腰掛け、レンは嬉しそうに笑う。カイトがアイスを食べる手を止め、レンを見つめてくるのがわかった。青色の瞳が、純粋な疑問に彩られている。

「好きって、痛いことなんだよ。やっぱり」
「……そうなのかい?」
「そうだよ。だって、おれ、おれね、マスターが好きなんだ」

 カイトの方へ身を乗り出しながら言う。青色の瞳の中に、興奮した面持ちの自分の顔を見つけ、レンはそっと息を吐く。興奮したせいか頬に集まる熱を手の甲へと伝播させるべく押し当てながら、レンは乗り出した姿勢のまま、言葉を続ける。

「好きなんだ、だから、胸が痛くなって──」
「よ、よくわからないよ。好きっていうのは痛いだけ、なのか」

 レンに気圧されたのか、ソファーに背中を貼り付けながら困ったように言葉を紡ぐカイトに、レンはしっかりと頷いた。
 痛いのは好きなんだ。だって、マスターの歌でもよく言っている。好きだから、だから、胸が、痛い──。そう言っていたから、間違いない。
 レンはもう一度しっかりと頷いて、カイトを見つめる。青色の瞳は薄い海の色だ。自身とは全く違うそれを見据えながら、レンは頬に当てていた手を自身の胸へあてる。胸はまだちくりちくりと継続的な痛みを訴えている。
 ──あれ、とレンは思う。なんでカイトに対しても痛みを感じるのだろうか。首を傾げ、レンはそのまま疑問を口にした。

「でも、どうしよう。おれ、今カイトさんと話してるのに胸痛いや」
「それは、あれじゃないかな。今レンは、大好きなマスターと離れているから、ほら、マスターの歌詞でもよくあるだろう、遠くに居るあなたを思うと胸が痛くなる、みたいな歌詞が」
「そうかな。そうだよね。マスターのこと、おれ、好きなんだあ……」

 初めて感じる好きという感情を、レンは抱え込むように自身の胸へ指を這わせる。日に日に増す痛みは、きっと想いが伝えられていないからなんだろう。今ちくりと感じる刺すような痛みは、マスターが傍に居ないから、胸に積もっていくのだろう。
 そう考えると、どうしようもなく痛みがいとおしく思える。レンはくすくすと笑い声を零す。瞬間、痛みが酷くなり、僅かに息を呑んだ。胸に這わせていた手の平で、自身の服を強く握る。

 痛みを大切にしたい、とレンはぼんやり思う。痛いことは好きなことだ。だから、この痛みも、どの痛みも、全て自分が受け止めて行きたい。痛むのが日に日に強くなるのも、全部、全部、おれが受け止めるんだ。痛みが強いほどに、きっと、思いは強くなっていくのだろう。

「──好きなんだよ……」

 唇の端から零すようにして発せられた声は、かすれていた。カイトが嬉しそうに笑って、「よかったね」と安堵するように呟いた。
 視線を上げると、嬉しそうに微笑むカイトの姿が目に入る。広がるような青が、細まっていた。弧を描いた唇が、優しげな声をつむぎ出す。

「好きがわかって、よかったね。おれには一生わかりそうにもない」
「うん。本当に、本当に、よかった」
「レンは一歩マスターに近づいたんだ」

 カイトの指先がレンの額をつついた。カイトの言う言葉の意味はわからなかったが、それでも、自身の進歩を喜んでくれるカイトに対して、レンも笑みを零した。胸が、膿むように痛かった。

作品名:恋を思って死ねたなら 作家名:卯月央