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僕にとっての神様

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 健二は佳主馬に色々と奢りたがり、食事や電車賃など、少し滑稽な程に、自分が二人分の料金を出すことを主張した。曰く、年上の義務だということだ。佳主馬がいくら稼いでいるなんて知らないくせに。兄弟がいたらこんな風なのかなって思うんだ、と少し含みのある笑みを見せられると、佳主馬は弱い。3回に1度は渋々財布をしまうことになる。それに、ただ弟としか見られていない証拠なのだとわかっていても、健二の管理下に置かれている、庇護されているという空想に摩り替えることで、彼の抱えている、きりきりと引き絞られた、どうしようもなくどろどろした恋情は、少しだけ慰められるのだった。
「掬ってどうするの、名古屋まで連れて帰れないよ」
 照れ隠しに口を尖らせると、健二は瞬き、困ったように目を左右に泳がせたが、ややあっていいことを思い付いた、とばかりに笑顔になり、ひとつ頷いた。
「じゃあうちで飼うよ。ね」
 結局、健二は勢い込んでタモを振るったが1匹も掬えず、佳主馬は7匹掬って、1匹だけ連れて帰った。ビニールの袋の中で、引き延ばされた金魚の姿がゆらゆらと揺れる。連れ帰られる金魚に自分を重ねて、佳主馬は面映ゆいような、眩しいような、胸の奥の方を人差し指でかき混ぜられるような気持ちになり、そっと目を伏せた。体ばかり大きくなってきたものの、佳主馬は中学生であり、恋愛の持つ本質どころか、その尻尾の端っこすら、捕まえられてはいないということを、まだ知らない。

 次の朝待ち合わせ、健二の自宅近くのホームセンターに行って、鉢とポンプと餌、他金魚を飼うのにいるものを買ってきた。ポンプも入れ辛いし、水槽にしたらどうかと佳主馬は進言したのだが、健二は金魚と言えば鉢だから、と頑なに譲らなかった。温和で争い事を好かないように見えて、意外と頑固なところが健二にはある。飼うのは健二なのだから、そこは佳主馬が譲った。小磯のうちに上げてもらい、窓際に金魚鉢を置いて、ポンプの電源を繋いだ。途端に、丸い気泡が幾つも浮かび、弾けては消える。ぽこぽこと水の循環する音が何とも涼しく、よく洗った玉砂利を敷いて、水草を植え込んでやると、それはもう完璧な、金魚鉢のイメージそのものが、そこにあった。
作品名:僕にとっての神様 作家名:ゲス井