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僕にとっての神様

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 佳主馬はその閉鎖された綺麗さに満足し、健二の方を見た。健二は餌やカルキ抜きの薬をしまってしまうと、所在なさげにぼんやりと突っ立って、佳主馬のやることを眺めていた。
「どう?」
「うん」
 健二はきょろきょろと落ちつかなげに視線をさ迷わせると、一歩下がり、目を細くして金魚鉢を、まるきり観察するふうにした。それ以上、感想らしいものは出てこないようだった。その、温度というものの抜け落ちた視線に、佳主馬はなんとなく嫌なものを覚えたけれど、そのあたりは、無意識下のもとに、14歳の軽薄さでどこか遠いところに押しやってしまって、わざと冷静な声を出す。
「健二さん、金魚、鉢に入れれば」
 一晩浴室に置いてあったバケツから、プリンのカップで金魚を掬ってきて、すっかり設えた住みかに落とす。金魚は、あっさりと水の中に潜り込み、それで終わりだった。世界は2人の手によって創造され、ひと鉢の中で完成された小宇宙が、小磯家の食卓テーブルの上に、置かれている。

「ちゃんと世話してよ」
 新幹線の改札前で別れた。先ほどのぞっとする目付きを思い返し、佳主馬は念を押したが、土産だ弁当だと売店を歩き回る健二に、佳主馬の言葉がきちんと届いたかはわからない。

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 秋になり、冬がきた。東京から戻ってからの一月程度は、金魚の現況について尋ねてみたりしたものの、日々の過ぎるにつれて、そうすることもなくなった。最初の頃に、メールに添付されていた写真を見る限りでは、金魚は上手く育っているようだったし。

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 次に直接健二と顔を合わせたのは、春休みのことだ。健二の受験の都合で、冬の休みには会えず、佳主馬の三月の休みまで持ち越しになっていたのだった。大学合格おめでとう、だとか、佳主馬くんも今年は受験生なんだねだとか、当たり障りのない話をしているうち、健二が自宅を出て一人暮らしをするのだと言ったので、佳主馬はふと金魚のことを思い出した。

「そういえば、金魚、どうしてる」
「金魚…ああ」

 佳主馬の唐突な話題転換に、怪訝そうに眉を寄せた健二は、少しの間首を傾げたあと、痛ましそうに表情を作り変える。

「死んじゃったんだよね。11月ぐらいに」

 朝まではいつも通りだったのに、家に帰ると、金魚が鉢から飛び出していたらしい。慌てて水に戻したが、金魚の尾びれは、もう二度と水を掻くことはなかった。
作品名:僕にとっての神様 作家名:ゲス井