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【捏造】 真選組!

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結局、餡蜜屋には行かず見回りがてら外回りに出てコーヒーショップへ入った。警官立寄り所と書いてあるから大丈夫だと言う山南さんの言葉を間に受けて制服のままだ。テラスの席へ座った。
「明日から三日有給だってね、どこ行くの」
武州でさぁと言った。その一言で了見したようで、あぁと頷いた。
「ミツバさん、よくないの」
調子がよくねぇみたいで、と通りを見た。姉一人、弟一人。縁者も少なく、武州に一人病がちな姉を残してきた。週に一度手紙の遣り取りをするが、先週来た手紙は代筆で、手伝いに来てくれる近所の人の名で表書きがしてあった。季節の変わり目ということも相俟って、調子を崩しているらしい。
「お見舞い、か」
アイスコーヒーをストローでかき混ぜながら山南さんは心配だねと言った。嘗て武州に居た山南さんは姉とも面識がある。歳も近かったのでよく話もしていた。
「一人で行くの、局長は?」
「ガキじゃぁあるめぇし」
一人で行けまさぁ、そう不貞腐れれば、あははと山南は笑った。
「山南さんも行きますか」
自分と同じように明日は非番の札が掛かっていた。武州へ往復するなら一日あれば十分だが、少々強行軍である。だが行けぬ距離ではない。うぅんと山南はしばし考えて、行きたいけどねぇとコーヒーを一口飲んだ。
「明日は先約があるのよ」
江戸には知り合いは少ないと聞いていたが、その答えは意外だった。どこへ行かれるんですかィ、総悟は問う。山南は煙草のフィルタをテーブルの上でトントンと叩く。
「昔、世話になった道場で」
前置きをしながら煙草を口に咥えた。
「古い馴染みがいるんだけど、そいつから手紙が着たから」
山南は何年ぶりかしらねと一言漏らした。恐らく武州に来る前の話であろうと総悟は推し量った。昔、近藤さんの道場にやってきた山南さんは、江戸の剣術の衰退にほとほと嫌気がさしたのだと漏らしたのを聞いたことがある。
「あ、ねぇあとでミツバさんへお土産買うから一緒に来てくれる」
不意に思いついたようにひょいと此方を見て言った。人に持っていってもらう方がいいわと時計を見た。眠らぬ町かぶき町と云えど、小売の店は閉めるのが早い。急がないとねとコーヒーを飲みながら、何を買おうかなぁと呟いた。
「それって野郎ですかい」
不意に総悟が口を開いた。なんの話、と山南は小首を傾げ、ああ、さっきの話の続きねと笑う。剣術道場だもの、と言い、殿方よと冗談ぽく笑った。
「やきもち、総ちゃん?」
山南は未だ微かに頬の丸い総悟の顔を覗き込んだ。総悟はぷいと顔を背けてそっけなく言った。
「そんなんじゃねぇでさ」








<2=「蛍川」>




足音が止まった。
総悟は振り返る。

コーヒーショップで一服つけたあと、山南と連れ立ってミツバへの土産を買いに行った。幸いなことに百貨店はまだ開いていた時間であったので、日持ちのする菓子を求めて帰路に着いた。見回りがてら遠回りして帰ろうか、そう言ったのは山南だ。ふらりふらりと歩けば河原へ出た。月の無い夜だった。

足音が止まった。
総悟は振り返る。

かち、かちん。彼女の手元で火花が散った。咥えた煙草に火をつけようとしたのだ。びゅうと生温かい川風が吹いた。点かないな、とでも言っているようだ。フリントから火花が散るが、一向に点かぬ。風の所為もあるのだろう。諦めたのか咥えていた煙草から口唇を離そうとした。
「貸してくだせぇ」
ライターを山南の手から取りあげ自分の背を風除けにして火を点けた。独特の音がした途端、揺らめく炎が二人の間に上がる。山南はそのまま総悟の手元に煙草の先端を寄せ、軽く炎を吸い込んだ。かちりと蓋が閉まり明かりは消えた。ラムの馨の混じる、独特の匂いのする煙がふわりと立ち上る。
「上手ねぇ、隠れてトイレで吸ってるの」
小さく笑うと総悟は、冗談、吸いませんや、と山南から少し離れた。手の中にはさっきまで火の点いていたライターがある。女性が使うような華奢なデザインではない。無骨な文様が彫ってある。男物だ。
「どうしたんですかい、これ」
アァ、貰ったのよ、指で煙草を挟んで灰を落とした。黒髪が風に靡く。
「誰に」
「副長」
土方さんか、と総悟はライターの蓋を手慰みのように開け閉めした。売るほど貰うらしいわ、と山南は笑い、おモテになるのねぇと言う。自分はまだ連れて行って貰ったことはないが、ナカでは随分土方さんはモテるようだ。時々屯所に付文をする者も居るが、大抵すぐにダメになる。何故ダメになるのかは知らない。ざまぁみろと思うだけだ。
「棄てるって言うから貰ったの、勿体無い」
ということは、これは土方さんがどこかの女に貰ったものの横流しか。人の棄てたものを、それもあの男が気も無い女から貰ったものをその懐に入れるとは、何を考えているのだろう。
「貰う山南さんこそですぜ、趣味がワリィや」
返して、総ちゃん、普段の山南はおっとりとした口調で喋る。手の中で玩びながら河へそのまま放ろうかと右肩を小さく回す。
「俺が買ってあげまさァ」
そう言って肘を後ろに引いたとき、手首を掴まれた。おやと思う一瞬、ひょいと掌から奪還された。
「要らないわよ、火が点けばいいの」
微かに笑いながら山南は自分の許に戻ったライターを、確かめるように蓋を一度開けて火を点けた。
「総ちゃん、モノにはね、それぞれ役目があるのよ」
揺らめいた炎が一瞬その横顔を照らす。炎を見つめたその目は微かに伏せられ、長い睫毛が影を落とした。総悟はそれを横目で捉えた。
「これだって何万もするんでしょうけど結局は火が着かなければ意味が無い。火がつかないライターなんて、喫茶店のブックマッチにも劣る」
ぱちんと蓋が閉められ、光に慣れた網膜にちらちらと光の残像が見えた。
「だから、火が点く間は私はこれを使う。代わりは要らない」

ふわりと煙が纏わりつく。
かぎ慣れた匂い。

「じゃぁ火が点かなくなったら」
オイルを入れるわ、そう言いながら山南はゆっくりと歩く。煙を吸い込みながら呼吸をするように。赤い火が吸い込むたびに強く光った。
「綺麗ね」
山南は不意に立ち止まる。
砂利を踏んだ音。
それに振り返る。
あれ、と指先に挟んだ煙草の火が指す方を見た。
煙草の火に呼応するように蛍が舞う。青白い光がふわりふわりと葦の茂る河辺から空へと舞った。

あぁ、と総悟はその光を見た。
ひとつ、ふたつ、みっつ。

無数の蛍が互いの光に呼応するようにいっせいに光る。闇夜を仄暗く照らしながら、凪いだ波が押し寄せるが如く。総悟は足を止め、此方の岸から彼方岸へ渡る光を目で追う。ふと郷里で見た蛍の大群のことを思い出す。まだ子供だった頃、祭りの帰りに見た無数の蛍。隣には、姉と、近藤さんと、あの男が居た。黙ったまま立ち尽くしていた総悟に不意に山南が言う。

「山南さんほどじゃねぇ、くらい言えないの」
それセクハラです、総悟は間髪いれずに返す。山南は穏やかに笑いながら、近藤さんなら言うわね、と心を見ているかのように笑った。
「あの人誰でも彼でも臆面もなく言うんだもの」
「山南さんは近藤さんみたいな人がタイプなんですか」
そうねぇと、ふふふとわらった。この人はいつも柔らかな物言いをする。
「度量が大きくて、懐が深くて、情に厚くて」
作品名:【捏造】 真選組! 作家名:クレユキ