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【捏造】 真選組!

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「夏だったよなぁ」
「そうだっけ」
山南はしらばくれた。黒歴史か、と原田はあの日のことを思い出す。夏の暑い盛りで盆前だった。お頼み申すと入り口で声を聞いて、初めに出て行ったのは自分だった。だから良く覚えている。
「藤堂、夏だったよなぁ」
同じ頃、食客として道場に寝泊りしていた藤堂に話を振った。山南はもういいよォとそっぽを向いている。
「テメェきいてんのかよ」
あ、スンマセン、藤堂は二人に背を向けるように座っていた。振り返ったその手には、二人の氷の二倍はありそうなガラスの器が乗っている。
「おめぇ、何食ってんだ」
「一ミリも聞いてないっす。マジ白くまうまいっス」
氷の上に乗っかった缶詰の黄桃、パイナップルとさくらんぼ。それから練乳が乗っかっている。値段は氷いちごの三倍だ。
「テメェ、人の金で、一人でンなもん食いやがって」
原田は散々悩んだ末の氷イチゴはやはり失敗だったとばかりに、電光石火の動きで藤堂の白くまをスプーンでひとすくい。よこせ、と得手の突きを繰り出す。山南は剛の突きの狭間をすり抜けるように、原田の腕の下からちょーだいと手を伸ばした。完全に出遅れた藤堂はあぁという声とともに二人のスプーンの侵攻を許した。半分残っていた氷の山は突き崩されて瓦解。パイナップルを原田に、さくらんぼを山南に強奪された。
「ちょ、山南さんは兎も角原田さんそれ食いすぎ!」
どんぶり飯でも掻っ込むように奪おうとする原田に藤堂は白くまの器を死守した。ちまちま食ってんじゃねェよとスプーンでの一騎打ち。
「いざ尋常に」
「勝負すっかァ」
私闘は禁止、溶けるよぉと山南は言った。

 *

襖を細く開けた。
静かに息を詰める。
片目ずつ覗かせて座敷を見渡す。
行儀が悪いとか悪趣味だとかは言ってはいけない。

「だれだぁ、ありゃァ」
「さぁ」
覗いた先には道場主の近藤と客が一人座っている。初めに覗こうと言い出したのは藤堂で、原田が乗った。止したほうがいいですよといいながら前へ出たのが永倉で、斉藤はあとで替われといった。
「他流試合にきたんだとよ」
「どこから」
「江戸」
しかも北斗一刀流とか何とか、とそう言ったのは原田だ。お頼み申すと門の前で呼んだその客を取り次いだのが自分である。
「マジで、超都会の流派じゃん」
その時、年嵩の井上が二人の前にお茶を運んだ。客は静かに頭を下げて恐れ入りますと言った。随分柔らかな声だ。
「何でこんな田舎に」
「さぁねぇ」
にしたって、と寝転がるように覗いていた斉藤がぼそりという。
「美少年ってェ奴か、ありゃァ」
客はすっきりとした柔和な顔立ちである。それに役者のように色が白かった。藍色の単がそれをより際立たせているのか、総髪のまま高く結った亜麻色の髪が背中まで垂れている。身なりはそうは悪くは無い。刀も大小、名のありそうな拵えである。火熨斗の掛かった臙脂と黒の平縞の袴が更に人柄をきちんと見せている。
「山南さん、と仰いましたか」
最近当代を継いだ近藤は押し黙っていたが漸く口を開いた。今しがた目の前の歳若い侍が言った言葉を反芻する。青年はじっと此方を見ている。迷いや畏れの無い美しい眼だった。
「試合を、お受けしましょう」
ありがとうございます、と青年は頭を下げた。顔を上げたときには既に剣士の顔をしていた。
「流儀は此方の方式でよろしいか」
「結構です」
「木刀での一本勝負」
「はい」
紅顔の美少年という風情である。話し方は江戸風だがどこかおっとりとした喋り方で、かすかな訛りがあるようにも聞こえた。色白の顔に涼やかな目、小作りな鼻と口が表情を上品にさせる。廊下で中間の真似事のように控えていた井上が、どうぞと支度をする部屋に案内するのを見届けた。
他流試合など久方ぶりだ。普段は此方から近隣の道場へ出稽古に赴く事もあるが、こうやってわざわざ試合を申し込みに来る者など殆ど居ない。芋侍相手の武勲など必要ないからである。
剣は侍が振るうもの。ただその剣も攘夷戦争で下火になっている。侍への弾圧は続き、剣を取り上げられる日も遠くは無いだろう。だが、と近藤は思わず表を見た。此処は何も変わらず相変わらず自分達は剣の腕を磨いている。だが志や道というものは誰かに取り上げられるものではない。くだくだ考えても仕方あるめぇと近藤はつぶやく。死ぬまで腕を磨くだけだと立ち上がった。

トシさん、トシさん、気安く声を掛けてきたのは原田である。ンだよ、土方は両手にスイカ二瓢を掲げて帰ってきた。近藤たっての頼みで総悟の家まで行っていた戻りだ。誰が行ったって良さそうなものなのに、トシ頼むと言われれば行かねばなるまい。
やれ先週は戸板が外れて戻せないだの、今週は貰った西瓜が沢山あって困っているから取りにいってくれだの、どう考えたってお節介以外の何者でも無い用事で借り出されている。
実際お節介なのだ。
原田は戻った矢先の土方に不在の間の客を伝えた。道場破りだってよ、そう教えられてもふぅんという程度の感想しか持てぬ。
「モノ好きな奴がいるんだな」
こんな田舎へよ、炊事場の外に置いてあった桶に水を張って西瓜を浮かべた。日陰においておけば少しは冷えるだろう。原田は猶も続ける。
「それがすげぇまァ美少年でよう、アレで剣なんか振れんのかね」
兎も角道場へ来いとそのまま引っ張られた。近藤さんが呼んでいるという。道着に着替えて道場へ上がれば既に皆が控えていた。まだ試合は始まっては居ないらしい。一礼して入り口近くに座った。奥の上座に一番近いところへは「沖田先輩」が座っている。随分神妙な面で、後から入ってきた土方を睨んだ。
表は今日も暑くなりそうである。ジーワジーワとまだ午前中だというのに蝉が煩く、少し翳ればいいと思うのに雲ひとつ無い晴天。座っているだけで汗が噴出す。

その時。足音がした。
聞覚えのある道場主の足音。それから、その後ろに見える人物。

驚いた。まるで女だ。脛は真っ白だし、道場破りと聞いたからどんな強面が着たかと思えば優男。思ったより小柄だ。目鼻立ちは優しげで、亜麻色の総髪の髪が揺れている。
近藤が一礼し道場に入った。続いて、件の道場破りが傍を通る。値踏みよろしく、ちらりと横目でその姿を追った。それに気がついたのか一礼したとき相手が此方を見た。容姿に似つかわぬ、鋭い眼。なんだ、と思わずその姿を追う。
そいつは近藤さんの真正面に立って頭を下げた。井上さんが両者の狭間に立つ。蝉の声が途切れた一瞬の静寂。振り下ろされた井上の手が残像のように土方の網膜に残った。

  *

清清しい笑顔で参りましたと平伏する「道場破り」こと山南は確かに強くはあった。気合一閃、近藤の気迫に一歩も引けを取らなかった。間合いを計り、呼吸を読み、鋭い足音ともに互いに打って出た。
傍から見れば近藤の圧勝であった。だが、と土方は彼の人物が発した鋭い針の穴さえ通すような鋭い殺気を肌に感じた。静電気のように、皮膚の上に踊る。
近藤は強い。「強い」武道家だ。出自を言っても仕方が無いが、道を尊び、義に厚く、集まるものを慈しむ。侍とは斯く或るべしと言う教えを全うに、馬鹿正直に、誠実に守ろうとする。そう言う意味では総悟は強い「剣士」だった。
作品名:【捏造】 真選組! 作家名:クレユキ