ERROR DETECTION
博士の大人な──というか、平和主義っぽい制止には、キッドとふたりで盛り上がってたさっきのこともあって心を動かされなかったけど、灰原の言葉は気になって、オレは彼女を振り返った。
「もしかして、彼、頭を打ったせいで記憶が混乱してるのかも。そうじゃなきゃ自分から名前を名乗ったりしないと思わない?」
「……」
その意見を鵜呑みにしたわけじゃないけど、気にはなったので、オレは黙ってキッドを睨んだ。
一方、本人は灰原へ間抜け面を向けている。
「頭打ったって? オレが?」
「ええ。後ろに瘤があるでしょ。痛くないの?」
「べつに……ッてぇ!!」
キッドは怪訝そうな表情をして自分の後頭部に手をやって、そこでどうやら瘤を手加減なく触ってしまったらしく、情けない声を上げて飛び上がった。
「うっわ、何だよこれ……マジでたんこぶできてんじゃん!? しかも結構デカいんじゃないの?」
「……」
これはどうやら灰原説に軍配が上がったようだ。
オレはむっつりと黙り込み、博士がおろおろと順番に全員の顔を見回した。
しばらくして灰原がぼそりと洩らす。
「このままずっと忘れたままだと好都合なのにね」
「……そうだな」
十割本音だろう灰原のその台詞に、オレは釈然としないものを感じつつも大筋で同意したのだった。
作品名:ERROR DETECTION 作家名:にけ/かさね