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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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ERROR DETECTION

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「──この怪盗キッドって奴ぁ、一体何考えてんだかわかんねーよなぁ」
 呆れたようにそう言いながら、リモコンでテレビの音量を上げる毛利のおっちゃんに、まさしくいま画面で紹介されている新聞記事を読んでいたオレは、
深々うなづいて同感を示した。
 あのさんざんだった夜から三日後の月曜日。世間はウィークデー初日だというのに、ふたたび朝っぱらから、怪盗キッドの置き土産のようなイタズラに湧き返っていた。
 というのも、キッドは盗んだ宝石を、犯行直後にポストに投函し、速達郵便で警視総監の自宅へと送りつけていたからだった。
 一般のものと一緒に回収された郵便物は、土曜日の朝一番の集荷に乗って本局で仕分けされ、翌日曜日には警視総監の家に届けられたらしい。
 宝石が警視総監本人の目に触れたのは同日の夕方のことで、そのことをマスコミが嗅ぎつけたのは夜。そのあと新聞各社は徹夜で記事の差し替えに大わらわとなり、今朝のワイドショーは怪盗キッドの話題で大賑わい、というわけだった。
「こりゃ、今日は警察は大変だぞ」
「大変って?」
「ああ? クレームの嵐だよ。警察はなんで泥棒にバカにされて黙ってるんだ。早く捕まえろってな」
 もともと警官だったおっちゃんは、自分も似たようなことを言われたことがあるのか、テレビのコメントを聞いてしみじみ同情していた。それを横目に見たオレは、いっそのこと蝶ネクタイ型変声機で適当に声を変えて、ヤツの正体を警察にタレ込んでやろうかと一瞬真剣に考えたりもした。
 警察もまさか天下の大泥棒の正体が、現役高校生だと疑ってみたことなどないだろう。そして、警察をあざやかに煙に巻く手腕の持ち主が、じつは民家の屋根から落っこちた衝撃で記憶喪失になるような大ドジ野郎だなんて思いもよらないに違いない。
 オレはスポーツ新聞を握りしめたまま、ぼんやりとあの夜のことを思い返していた。
 ヤツの正体が露見して、あのすっとぼけぶりが演技じゃないとわかったあと、キッドにふたつみっつ質問を投げた灰原は、しかつめらしく答えを聞いてから、軽い記憶障害だろうと本人に宣告したのだ。
 そのあとの灰原の策士ぶりときたら、とてもじゃないが小さな友人たちや、博士にもお目にかけられたものじゃなかった。黒の組織の一員だったこともあるやつだし、一筋縄じゃいかないってことも知ってたつもりだったけど、敵に回すのだけはやめようとオレは真剣に心に誓ったぜ。
(交通事故の直後なんかによく見られる記憶の混濁と同じ症状ね。そのうち自然に治るとは思うけど)
 そういって本人をビビらせた灰原は、博士に付き添わせて隣の家へとふたりを追い払ったあと、オレからキッドは盗んだ獲物はどこかに隠してきたようだという情報を入手して、じつに大胆な計画を立ててくれたのだった。
(じゃあ、こうしましょう。彼は幽霊屋敷だって噂のある洋館に興味を持って、こっそりと工藤くんの家に忍び込んだ。そしてたまたまひとりで留守番していたあなたと屋根裏で鉢合わせてしまい、驚いて逃げようとして窓から落ちた。ここに来た経緯なんかを覚えていないのは、その時に頭を打ったせい。ショックでちょっと記憶が混乱してしまっているのね。ちなみに、工藤くんや私とは、勿論初対面よ)
 言われてみるといかにももっともらしく聞こえる筋書きに感心していたら、灰原はにこりともせずにさらりと言ってのけた。
(たいしたことじゃないわよ。嘘をつく時は、必ず本当のことを混ぜておくの。そうすれば話に真実味が出るから人は騙されやすくなる)
(たいした悪知恵だな)
(ありがとう。褒め言葉だと受け取っておくわ)
(褒めてんだよ)
 そんなやりとりで、その後の方針は固まった。
 ヤツが忘れている間に、こっちの対策を練ろうという腹だった。これでお互いの正体を握り合うことになるわけだから、オレが戦々恐々とする必要もなくなるはずだ。
 だから、とりあえず本人が自力で真実を思い出すまで放っておくことに決めたオレたちは、キッドのマントとシルクハットとモノクルを拾い集め、オレの家に隠した。返して欲しくなったら自分で取りに来るだろうから、その時が正念場となるわけだ。
 そうして手早く仕事を終えたオレと灰原は、何食わぬ顔で博士の家に乗り込んだのだ。
 そこで見たヤツ──黒羽快斗は、上着とネクタイを取った姿でくつろいで、博士に手足の擦り傷を消毒してもらっていた。自分のしていた白手袋をしきりと不思議そうに見ているのにはヒヤリとしたが、幸い何も思い出す気配はなかったので、オレたちもそれには触れないようにした。
 しかし、そうやって明るい部屋の中でキッドの扮装を解いた姿を見ていると、ヤツはどこをとってもごく一般的な、普通の高校生でしかなかった。
 オレと似ていると思った顔も、髪型が違うせいか受ける印象が違った。どちらかといえばオレよりも表情が豊かで、子供っぽく見えなくはない。しかも灰原のこちらに都合良く捏造した説明を聞いたあとには、オレの連呼した泥棒発言をさらっと水に流してくれて、殊勝にも頭を下げてきたりなんかしたのだからオレのほうの良心が咎めた。
(悪かったな。勝手に家に入ったりして)
 いや、確かに謝れよ、とは思ったけど。
 博士がヤツのことを怪盗キッドだと呼んだのも、気づけば灰原がオレの妄想ということに仕立てあげていた。折しも犯行日に白い服を着た見知らぬ男が勝手に入ってきたため、オレはそいつをキッドだと思いこみ、博士と灰原にキッドが現れた、と助けを求めたという筋書きらしい。
(ううん、いいよ。うちはよくお化け屋敷に間違われちゃうんだ)
 オレは、ひきつる笑顔でものわかりの良い子供を演じながら、本物の泥棒が泥棒呼ばわりされて憤慨するなんて妙な話だと思っていた。そして、家まで送るといった博士の車にヤツが乗り込むのを見ながら、こんなに簡単に人を信じちまうヤツが警察を手玉に取れるなんて不思議なもんだとも。
「おい、コナン! ぐずぐずしてっと遅刻するぞ!」
「あ、はぁい!」
 考えに没頭していたオレは、突然テレビの音声に負けない音量でおっちゃんに怒鳴りつけられてハッとした。今日は日直当番だとかで、蘭はいつもより早くひとりで出かけていたから、おっちゃんが気にしてくれたらしい。
 オレは新聞を置いて、素直に荷物を取りに走った。
「行ってきまーす!」
「妙なヤツにはついて行くんじゃねーぞ!」
 ランドセルを背負ったオレは、おっちゃんらしい言葉に見送られて家を飛び出した。そして一番最初の交差点を曲がったところで、何気なく突っ立ってたそいつに気がついた。
 こんなに早くお出ましだとは思わなかったが、そのうち必ずオレの前に姿を現すだろうと信じていた相手だ。
「よう、嘘つきボウズ」
「来たな、ドジ野郎」
 のっけからのその挨拶でヤツがもと通りに戻ったことを察したオレは、憎まれ口を叩きながら笑ってしまった。ヤツはオレたちの嘘に気がついた瞬間、どんな顔をしたんだろうと思いながら。
 制服姿の黒羽快斗は、オレと同じように笑いながら、ほんのちょっと自嘲するように口もとを歪めた。
「まったくな。オレとしたことがとんだドジ踏んだもんだぜ」
「いや、案外そっちが本性じゃねーの?」
作品名:ERROR DETECTION 作家名:にけ/かさね