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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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ERROR DETECTION

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 ──だが、そう美しく締めくくられたはずの話は、どういうわけだか続きがあって。
「ねぇ、名探偵ってば」
 一体これで何度目だろう。さっきから隣でしつこく繰り返されている、その揶揄だか嫌味だかわからない調子の呼びかけを、もはやオレはほとんど意地の境地になって無視し続けていた。
 世紀の大泥棒が実家の屋根から落ちて一ヶ月半後、オレは季節の変わり目に体調を崩してひどい風邪を引き込んだふたり──博士と灰原に頼まれて、隣町の大型書店までおつかいに来ていた。
 灰原が取り寄せた本を受け取りに来たついでに、博士が欲しいといった本を探しに来たのだ。
 そこで本当に偶然、ばったりとこの男に出くわし、こうしてなれなれしく声をかけられた。最初は挨拶くらいしようとオレも思ってたんだけど、棚に手が届かなくて往生してたところに声をかけられたから、カッと恥ずかしくなって無視した。そしたらしつこくされて引っ込みがつかなくなって、現在に至る。
 だけどこれまですれ違いもしなかったのに、よりによってこんな場面で黒羽に会うだなんて。
 こんなことになるなら仏心を出さずに、博士の家で看病がてら本でも読んでいれば良かった──そう思っても後の祭りというやつで、不機嫌にため息をついたオレは、自力であの本を何とかゲットするため、隣の通路からずるずると引きずってきた踏み台を棚の前にでん、と据える。
 そう、博士の探してた本はオレが踏み台に乗って、さらに背伸びしてぎりぎり取れるか取れないか微妙なところに並んでいたのだった。
「ホンットーに意地っ張りだなぁ。本ぐらい取ってやるって言ってんのに。立ってる者は親でも使うのが基本でしょー? しかもオレなんて自分から志願してるのにさぁ」
 バカバカしい理屈に呆れて睨みつけようとしたら、それより先にヤツのほうが床にしゃがみ込んで、踏み台に乗ったオレの顔を覗き込んできやがった。
 だから、そういうところがムカつくんだって、わかってないんだろうな、この男は。大体、今日いまこの場所じゃないところで会ってたら、多分オレも挨拶ぐらい出し惜しみせずしてやったと思うよ。
 べつにこいつが口もききたくないほど嫌いとか、そういう理由でオレは無視してるんじゃなかった。
 ただ単にムカつくんだ。
 オレが頑張って背伸びしてもジャンプしても届かない本棚に、オレそっくりのヤツの手がひょいっと届くところを見るのなんて。
 ついでに、オレの手が届かないところを見られるのもイヤだった。ただの意地だってわかってるけど。
 だけどオレがぶすっとふてくされて踏み台を置く場所を調整している間にも、黒羽はますます滔々と、立て板に水とばかりまくしたてやがった。
「大体さぁ、友達っていったらさすがに語弊があるけど、顔見知りではあるわけじゃん、オレたち。なのに挨拶もしないってどういうこと? 蘭ちゃんに文句言っちゃうよ。躾がなってませんって。そしたらまた毛利探偵から拳骨もらったりするよな。でもあの人のアレってさ、一歩間違うと児童虐待だったりしないの? 体罰って、全面的に悪いとは思わないけど、さじ加減は必要だと思うね、オレは。あのオジサンはちょっと大人の力をナメてると思うな。
っていうか、子供のヤワさをわかってないっていうか。まあ、子育ての現場から離れて久しいわけだし、昔はあの美人の、弁護士さんだったっけ? とにかくオクサンが蘭ちゃんの面倒を見てたんだろうから、機微がわかんなくても当然──」
 しかも黙って聞いてればどんどん論点がずれていく。とうとうたまりかねたオレはドカンと爆発した。
「だぁぁ! うるせーんだよ、てめぇはベラベラベラベラと! 大体なぁ、誰が蘭に躾けられてるんだよ! オレのことなら親父とお袋に言え! 毛利のおっちゃんや妃弁護士は全然関係ないだろ!?」
 自分自身のことならいざ知らず、世話になっている家の、しかも著名人(片方は一応とつけたいところだが)のプライベートを、こんな誰に聞かれるかわからない場所で垂れ流すのは反則だろう。そしてこの男はオレがそう思うことを計算して、こんな無駄話を仕掛けてきているに違いなくて。
 ……本当に腹立つな。しかも蘭ちゃんとか、人の幼なじみを気軽に呼びやがって。
 不機嫌に睨みつけても、この姿じゃ痛くも痒くもないだろうけど、オレは睨んでおいた。黒羽はこれみよがしにふぅ、と嘆息して、肩を回しほぐしながらさりげない動作で棚に背を向ける。
「やれやれ。やーっとこっち見た」
「何だよ。何か用があんのかよ?」
 言いたいことがあるならさっさと言いやがれ。言外にそう含ませると、黒羽は別に、と首を振った。
「いやだから、見かけたら挨拶だろ、やっぱ」
 常々オレは自分の中にはそんなに暴力性は潜んでないだろうと自負してたんだけど。さすがにそこの中身がお気楽そうな頭は蹴り飛ばしたくなってきて、かなりの我慢を強いられた。
「んじゃ、こんにちは。でもってさようなら!」
「こらこらこら、」
 ひと息に言い捨てて背中を向けて踏み台から飛び降りようとしたところ、苦笑まじりの声が聞こえてコートの背中を掴まれた。そのまま一瞬だけ宙に浮く感覚があって、もとの場所へと連れ戻される。
「思ったより嫌われてるのなー、オレ」
「……」
 正確にいえば『嫌い』というのとはちょっと違うのだが。けれども律儀にそんなことを説明する義務はないから、ただ放せよ、と身もがく。
 その横を、営業まわりの途中らしいスーツ姿の男がすっと通りがかった。趣味の本を買いに来たのか、駅にないようなバイク雑誌を手にしている。
 ほとんどもう習性みたいなもので、横目にそんな観察をしていたら、ちょっと気持ちが留守になっていたらしい。男の腕が背中に当たってバランスを崩したオレは、踏み台の上から転げ落ちそうになった。
「あ、ぶな…っ」
 黒羽の声がしたと思ったら、立ち上がったヤツの腕がオレを抱きとめていて、そのあと今度こそオレは宙に浮いていた。ダメ押しのようについさっきまで足下にあった踏み台が、何度かくるくると回ってからごろりと横倒しになる。
「あっ、すみません! 大丈夫ですか!?」
 スーツ姿の男が慌てたように黒羽に頭を下げて、何故だか黒羽が笑顔を返していた。
「本当にごめん。ボクも怪我はない?」
「大丈夫ですよ」
 だからどうしてそこでおまえが返事するんだ!
 でも、それで男が安心したように去ってくから、オレはその姿が見えなくなってから文句を言うことにした。それほど待たずに、通路にまた黒羽とふたりきりになると、とにかく下ろせ、とつっけんどんに注文した。
「おや、助けてあげたのに礼もないわけ?」
 やっぱり躾が……とまた屁理屈を蒸し返すバカにオレはありがとよ、と嫌々言い捨てた。確かにこいつのお陰で転ばずにすんだが、こういうのは無理矢理言わされると無茶苦茶気分が悪い。
 すると黒羽はふふん、と笑って、オレを抱えたまま棚に向き直った。
「どういたしまして」
 それから、ついでにどうぞ、なんて言って、取りたかった本の目の前にオレの身体を持ってくる。
「……」
作品名:ERROR DETECTION 作家名:にけ/かさね