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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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ERROR DETECTION

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現在厄介になっている(あくまで同居だ)幼なじみの家──毛利探偵事務所から、オレの実家の隣の、阿笠博士の家までは、子供の足でも無理なく往復できる距離だった。
 だからオレはあんまりここに泊まることはなく、事件とか、よほどの事情がなければ、多少遅い時間になってもひとりであっちへと歩いて帰っていた。
 だけど今日は帰りたくなくて、オレはリビングのソファーに寝そべったまま、伸び上がるようにして肘掛けに腕をかけてぐずっていた。部屋の隅でパソコンに向かっている博士の背中に、拝まんばかりにして頼み込む。
「なぁ博士、電話してくれよー」
 その声にキーボードを叩いていた手を止めた博士は、呆れたようなをして振り向いた。
「なんじゃ。断って出て来んかったんか?」
「出た時はちゃんと帰るつもりだったんだよ」
 間借りしているおっちゃんの部屋にランドセルを置いてから階下の事務所に顔を出すと、保護者代理の探偵が、いつものごとくひとりで昼間から飲んだくれていた。
 依頼人が来たらどうする気なんだか、と思いながら蘭ねーちゃんは? と訊ねると、きっと部活なんだろう。まだ帰ってきていないという返事があったので、オレはおっちゃんに博士のところへ行ってくる、とだけ伝えて事務所出てきた。ああいう時に長居したり、余計なことを言うと絡まれてしまうので。
「あなた、前もそう言って結局泊まったのよね」
「……うっせーな」
 ああ、ああ、どうせオレは見通しが甘いよ!
 箱から出した本を、あまり興味なさげな表情で手に取って灰原が痛いところを突いてくるのに、内心で認めながらもオレはふてくされてそっぽを向いた。暗に目の前の誘惑に弱いと言われたようで悔しかったからだ。
 正直、我慢できると思ってたんだよな。
 久しぶりに親父が送ってきた原書をゆっくり読みたいとは思ったけど、ついこの間、子供たちだけでちょっと無茶をしちまったからこのところ蘭が心配性になってて、たとえ博士のところでも、遅くまで邪魔してたり泊まったりするのはいい顔をしないだろうなって思ったし。
 蘭は、オレが預かりものだということもあるんだろうけど、半分くらいは本人の持ち前の性格のせいで過保護だったりする。
 まぁ、オレ自身、外見年齢には似合わない行動をしてたりするし、あながち蘭だけのせいにはできないんだけど。
 だから犯人と違って本は逃げないし、今日のところは中身のチェックとおおざっぱな仕分けだけにしておこうと思って、何も言ってこなかった。だけど気になる作家のタイトルを実際に目にすると、理性なんて役に立たなかった。せめて一冊だけ。残りは地道にここに通って制覇するから──そんな言い訳をしつつ欲望を満たしたくなって。
「なぁ、博士、頼むよ。蘭のやつ、オレから言うとうるせーからさ。適当にごまかしてくれよ」
「しょーがないのぉ」
 ますます哀れっぽい声で泣きついたオレに、やれやれ、といわんばかりにため息を落とした博士は、最後には苦笑してオレの望み通りに電話の子機を取り上げてくれた。
「サンキュー、博士!」
 飛びつかんばかりに感謝しつつ、オレはソファーの上に起きあがった。実をいえば、博士はオレに甘いところがあるから、突っぱねたりしないだろうとひそかに確信はしていたのだけれど。
 それでもこれで思う存分読書に耽溺できると思うと嬉しくて、自然に頬が弛んできた。
「おお、蘭くんか、儂じゃ、阿笠じゃ」
 電話に出たらしい蘭と、博士が話す声をぼうっと聞き流しながら、オレは一番上にあった本の最初のページを開いてみた。明日の昼頃に帰る予定にすれば、少なくとも二、三冊はいけるだろう、なんて浮かれながら。
 しかしやっぱり人生は、何もかも思い通りに、とはいかないらしかった。机に積んでいた本を矯めつ眇めつしていた灰原が、博士の電話が終わるのを待たずに立ち上がるとオレを睥睨する。
「工藤くん、夕飯を食べるなら、手伝ってちょうだいね」
 ……手伝いくらいするけどよ。
 子供みたいな嫌がらせをしやがると、オレはちいさくため息を洩らした。
作品名:ERROR DETECTION 作家名:にけ/かさね