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にけ/かさね
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novelistID. 1841
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Another Birthday

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 それなのに。
「……なんで新一がこんなとこにいるわけ?」
 たった一週間前にそんな会話を交わしたというのに、暇をつぶそうと寄った紀伊國屋でばったりと新一に出くわしたりするから、俺は珍しく仰天した。
 蘭ちゃんとの約束はどうしたの?
 ストレートにそう訊かなかったのは、期待してるみたいでみっともないから。無意識にそういうことを考えちゃうくらい、彼の前では見栄を張っていたいということなんだね。自分でそう思いついて、なんだかちょっと笑いそうになる。結構俺も可愛げがあるじゃん。
 だけど新一は当たり前だけどそんな俺のささやかな内心の葛藤には気づく素振りもなく、逆に文句をつけられたとでも思ったのか、ムッとしたみたいに細い眉を寄せた。
「なんでって見りゃわかるだろ。本屋に飯なんか食いに来るかよ」
「そりゃそうだけど……」
 たしかにね、おっしゃる通り。その腕に抱えられた本の山見れば買い物に来たことなんて一目瞭然だけどさ、俺が聞きたかったのはそういうことじゃなくて。
「約束はどうしたわけ?」
 やっぱりこの人には微妙な話はストレートに訊くしかないんだよなぁ、とため息をつきつつ、俺はしまっておこうと思ってた台詞を口にする。すると新一はそれで得心がいったらしく、ああ、とうなづいてちいさく首を縦に動かした。
「この後待ち合わせしてるんだよ。頼んでた本が入ったっていうから、出かけるついでに取りに来たんだ」
「へぇ、外で現地集合ってこと?」
「そ。あっちもなんか用事があるんだと」
 自分で誘っておいて、と肩をすくめる新一は、やっぱりわかってないんだよね。女心っていうより、他人の気持ちっていうか──多分それはプレゼントを用意するためだなって、俺にはピンと来るのにさ。
 彼女はきっとあらかじめ目星をつけておいたものを、待ち合わせの直前に用意する気なんだろう。前日までに準備しておくっていう手もなくはないけど、いくつか候補があって迷ってたり、店でラッピングしてもらった綺麗なままで渡したいと思ったら、その手段が常套だし。
 待ち合わせの前は仕込みにかける時間だっていうのは、俺にとっては当然だし。
 でも、新一は結構行き当たりばったりだったりするしなぁ……。
 そんなことを考えて、果たして彼女がどんなプレゼントを選ぶのか──なんていう無粋な詮索を頭から追い出した俺は、少しばかりオーバーなしぐさで両手を広げて肩をすくめてみせた。
「残念。暇になったんだったらお茶にでも誘おうと思ったのに」
「だから暇じゃねぇって、」
「そうなんだよねぇ。ここで会ったのも運命だと思ったのにさ」
「バーロ」
 やさしい悪態をつかれながら、俺は新一に付き合ってレジへと向かう。
 本当はもう少し店内を見て回ろうと思ってたんだけど、折角会えたんだし、俺のほうは時間もあることだし、別れてからまた行きたかったコーナーへ寄れば良い。
「それにしても買い込んだねー。この後、これ持って歩くの大変じゃない?」
 待ち合わせ場所までついて行くなんてしないけど、せめて書店の入り口ぐらいまでは一緒にいても良いかな、とひとり決めしながらちょっと前を歩く新一の両腕の中を覗き込んだ俺は、あらためて見た三十センチ近くはありそうなその高さに、ちょっと呆れた声を出した。
 俺も本を読まないほうじゃないけど、新一のは絶対度を越してるって。この本たちの<RUBY CHAR="内容","なかみ">が、全部探偵業に役立てるための知識として蓄積されるんだと思うと、呆れるを通り越して感嘆するよ。俺も記憶力は良いけどさ、知識に偏りがあるっていうか、興味のあることにだけにしか能力を出し惜しみしない傾向があるからさ。
 そんなことをつらつらと考えながら英文のものも混じった背表紙のタイトルを眺めていると、新一がまたバーロ、と口癖みたいになっている台詞を返してきた。
「誰がこんな重たいもん持って歩くかよ。宅配サービスがあるだろ」
「あ、そうか。そうだね」
「まとめて買う時はさ、一、ニ冊抜いて送ってもらうんだよ。四、五冊買えば送料もサービスだしさ」
「へぇ。新一にとってはお得で便利なサービスだよね」
「なんだよ、その限定っぽい言い方」
「え? だって、俺は<RUBY CHAR="無料","ただ">で送ってもらえるほど本を買うことなんてほとんどないからさ」
 ……この人はさ、俺たちの年頃の子供がそんなに大量の本を購入するっていうのが不自然だっていうことが、どうしてすんなりとわからないかな。……まあ、あんなでっかいお屋敷で、膨大な量を誇る書庫がある家で育ったっていう、家庭環境によるものかもしれないけど。
 それに、大量に本を買ったりすると店員の記憶にも残りやすいし、そういうことはなるべく避けるっていうのが俺の日頃からの心がけのひとつだったりもする。これは新一には関係ないかもしれないけど、とにかくよく常識人ぶったりしてるけど、彼はやっぱり時々どこか非常識だって思うよ。うん。
 そういう話をするうちに会計を済ませた新一は、発送用の伝票に自分の住所や氏名などの個人情報をさらさらと書き込むと、自覚はないんだろうけど、カウンターにいた女性店員を笑顔で悩殺するのと同時に用事も終わらせた。
 ああ、本当にタチが悪い……。
 とりあえず手にしていた本の会計をしてもらっていた俺は、すっかり頬を赤くしている店員を横目にこっそりため息をついたりなんかしてたわけだけど、それにも気づかない新一は、手があいたところで俺を振り返ってそういえば、と首を傾げた。
「おまえは? 本買いに来ただけか?」
「まあね。あとちょっとほかにも買い物でもしようかと」
 夏ものの洋服を見ても良いし、気になっているCDもあった。このまま秋葉原のほうまで足を伸ばすという選択肢もあったし、この時間にこの場所にいるってことは、時間の使い方にかなりの可能性があるってことで。
 俺がさらっと答えると、ふぅん、と新一は鼻を鳴らした。
 どうやらここに俺を置いていくことに、少しは罪悪感を感じているらしい。
 そりゃそうか。そうだよな。別の日にあらためて仕切りなおす約束はしたけど、一度は先約があるって断わってるんだもん。
 職業柄(?)俺はどちらかといえば不確定要素はなるべく排除していきたい性質なんだけど、こういう嬉しい誤算が起きるハプニングなら大歓迎だなぁ。工藤新一の纏う名探偵らしい隙のない空気は勿論好きだけど、こんなふうにどちらかといえば不器用な、ただの高校生の一面も同じくらい気に入ってたりもするからさ。
 新一と一緒にひとまず出口へと向かいながら、俺はつぎになんて言おうかうきうきと考えた。
どういう台詞がどういった効果を生むのか、それを想像するのはもはやマジシャンの習い性のようなものだしね。
 だけど、結局のところいくつか考えた台詞が俺の口から出てくることはなかった。
 大体、一緒にいるのがあの名探偵・工藤新一なんだから、当然といえば当然といえるのかもしれないけど。
 本当にこの人、事件遭遇率と現場運だけは異様に良いよ。良すぎるって。
作品名:Another Birthday 作家名:にけ/かさね