二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ささいな誤解とエトセトラ。

INDEX|8ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

6.







「……大丈夫か、ツナ?」
気遣わしげな声。
てっきり土手のすそまで転がり落ちていくものだとおもって、ぎゅっと目をつぶっていたツナは、その声で気がついた。……転落がとまってる?
(……草のにおい)
それが、最初に明確に認識したことだった。
ツナはそろそろと目をあけた。
身体の両側に、やわらかい雑草が壁を作っている。
その上から、濃紺に変わった空がツナを覗き込んでいた。いちばん星だろうか、ひとつだけ大きく強くまたたく星も。星は、ツナから見ると、山本の肩のあたりの上空で輝いている。空と一緒に、山本が、ツナの顔を覗き込んでいた。
バランスを崩したまま、土手のいちばん下までゴロゴロと落ちていって全身怪我だらけ――というのがいつものパターンなのに、とまっていた。土手を半分程度転がったところで、山本の腕がしっかりと二人分の身体を支え、とめてくれたのだ。草むらに仰向けに倒れたツナは、ほっと肩の力を抜き、山本と空を見上げた。
さすが山本。
「助かった、山本」
ツナは無限の信頼をこめて、わらった。山本はふと虚を突かれたような顔をした。眉間に軽いしわが刻まれる。なにか言おうとしているように見えたけれど、やがてあきらめたようにためいきをついた。
「……ツナ。どーしてそんなに」
「……ごめん、どーしてこんなに運動神経悪いかな」
ツナは素直に謝罪した。てっきり山本がそう言いたかったのだとおもって。
「……いや、謝ることねーよ」
山本は少し間をおいてから短く笑う。――どうしてだろう、山本の声に余裕がないように聞こえるのは。
「山本?」
「……ん?」
「……あ、うーんと、納得した? オレが女の子じゃないって」
ツナの言葉に、山本は、それまで忘れていたことをおもいだしたように、一回だけぱちりと瞬きした。それから、仕方なさそうな笑顔になった。
「納得した」
「……ごめんね」
「んん。いいんだ。納得したから。男とか女とか関係ねーんだなーって」
どういう意味かよくわからなかったが、もっと気になることがあった。
「……山本?」
「ん?」
「……なんか、怒ってる?」
「……怒ってねーよ?」
…そっか、とツナはぼそぼそと口の中でつぶやいて、山本から目をそらした。なんとなく落ち着かなくなってきたので、主に星を眺めることに熱心なふりをすることにしたのだ。確かに山本は怒ってない、のだろう。だって山本はとても静かな声で話している。それなのに、なんで、こんなに、――落ち着かない、怖い気持ちがするのだろう? ツナはなんとなく心臓のあたりがどきどきしはじめるのを感じていた。ピンチのときいつも感じるやつだ。なんで? オレ今ピンチなの?
「……ツナ」
山本のささやき。静かなわりに余裕のない。なんか距離が近づいてないか? いよいよツナは星の観察に一生懸命なふりをする。超新星くらいなら発見できそうだ。実際は星なんか目に入ってないけれど。起き上がったほうがいい気がする。でも無理だ。だってツナの手首は山本の指にしっかりおさえられていて、地面から持ち上がらない。マウントポジションってやつ。プロレスなら必勝の構えだ。だけどプロレスごっこにしても、ちょっと力が強すぎないか。
「……山本、あの、そろそろ起きようか?」
「ツナ、今からなにしても、オレを嫌わねーでくれるか?」
「や、山本、山本、星が綺麗だよ」
「親友じゃなくなっても、許してくれるか?」
「や、や、山本! 山本! あれ、なんて名前の星なのかなあ!」
山本の声はどんどん低くなる、余裕がなくなっていく。ツナの声もどんどんかすれる、余裕がなくなる。怖くてダメだ、もっといつもみたいな声を出さなきゃなのに、と、ツナはおもう、でもいつもみたいな声なんか出せるはずがない、だって山本の、身体が、こんなに近くで、熱あるんじゃないかってくらいあついのがわかるくらい近くで、顔なんかもう――そうだ、キス、できるくらいに近くで、息が肌に触れるくらい――これはプロレスじゃない、あれのほうに近い、あの、雑誌とかテレビとかで垣間見る、普通おとなの男女がやってるやつ。
「ツナ、オレ、ツナそのものが、」
ささやきは耳元だった、ほとんど息だけで。耳朶をくすぐる感触と熱に、背筋がぞくりとした。星を見ているふりなんかもうできない、これはあれだ、あの、普通おとなの男女がやってるやつ、多分そう、でもなんで? なんで、山本? オレ女の子じゃないのに? 問いは口から出なかった。情けないことにくちびるが震えてしまって。そのくちびるも、山本のくちびるに、ふさがれそうになっていて。もし近くで見ているものがあったなら、草むらに半ばうずもれた男子中学生二人が何をしようとしているのかなんて、見間違えようもなかったにちがいない。
「……まも……と……っ、」
ツナは半泣きでかたく目をつぶって、


「十代目から離れやがれ野球ヤローーーーっ!」
どおおおおーん!
爆音と爆風が襲来した。
「うわああああ!?」
反射的にツナは丸くなり、山本はツナをかばった。
見上げる土手の上に、赤黒い炎を受けて、怒りの仁王像のごとくそびえたっているのは、獄寺隼人そのひとだ。
「ご、ごくでらくん!」
おそらく、獄寺がツナの役に立った貴重な瞬間であったろう。獄寺は叫んだ。
「お助けに参上しました十代目! お宅にお邪魔していたんですが、お帰りが遅いので探しにきてよかった! わかっています、この野球ヤローが、権謀術数を使って十代目にふらちなことをしかけたんですね! そーゆーやつだということはオレにはわかっていました、いま息の根をとめますんでご安心ください!」
「って言いながらダイナマイト投げるのヤメテーーーっ、オレの息の根もとまるからーっ」
獄寺がツナの役に立った短い時間は、かくしてあっさり終わった。