チョコよりも甘い
思わず口を出そうになった言葉が恥ずかしく、慌てて口をつぐんだ。…が、あいにく勘右衛門は、そんな俺の言葉を聞き逃さなかったようだ。勘右衛門がからかうような視線で、続きを言うように促す。
「それに…、タカ丸に」
キーンコーンカーンコーン…
俺が思い切って続きを口にしようとした瞬間、昼休み終了のチャイムが鳴った。
「げっ!俺、五時間目の木下先生の宿題、まだやってないんだった!!兵助、またな!」
勘右衛門は慌てて自分の席へと戻っていく。…よかった、ますますからかわれることだった…。俺はほっと胸をなでおろし、次の授業の準備に取り掛かった。
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「わぁ!兵助くん、結構一杯もらったね〜!」
放課後、委員会でタカ丸に会うと、開口一番にそう言われた。
「…それ、お前が言うと嫌味にしかならないけどな…。」
俺は呆れつつそうぼやく。さすがというべきか、タカ丸はおそらくチョコレートがたくさん詰まっているであろう紙袋を抱えていた。…そんなはずないのに、紙袋からチョコの甘い匂いが漂ってきそうだ。
「ん〜、きっと僕のは義理チョコがほとんどだよ。いつもヘアメイクしてもらっているお礼、みたいな感じの。」
確かにそんな感じの義理チョコも含まれているだろうが、それだけじゃないはずだ。こいつが本当にもてるってことは、恋人である俺が一番感じているだろう。
だが、タカ丸が本命チョコを貰っていることに関して、不思議と不安な気持ちにはならなかった。付き合いはじめたばかりのときなら、こいつのもてっぷりに不安になってしまっていたかもしれない。その気になればいくらでも可愛い女の子と付き合えるこいつが、よりによって男の俺なんかと…なんて卑屈になっていたかもしれない。
だが、今の俺たちには、積み重ねてきた時間とか、確固とした愛情とか、二人の関係を確かなものとする要因がたくさんある。タカ丸がどんな可愛い女の子よりも俺を愛してくれているという確信がある。だから、このバレンタインでタカ丸のもてっぷりを改めて目の当たりにしたところで、不安な気持ちにはならないのだ。きっとそれはタカ丸も思ってくれていることなのだろう。今の俺たちはそう簡単に揺らぐ関係でないことは、幸せなことだと改めて思う。
「…って、こんなにチョコ貰ってるくせに、板チョコ食うのかよ…。」