チョコよりも甘い
タカ丸はおもむろに鞄から見慣れたパッケージの板チョコを取り出す。購買部で買ってきたのだろうか?お菓子に疎い俺でも知っいてるおなじみの板チョコを、タカ丸はおいしそうにかじりだす。
「放課後ってなんか甘いもの欲しくなっちゃうからさ。バレンタインでもらったチョコレートを人前で開けて食べるなんて、いくらなんでも無神経でしょ?」
それは確かにそうだ。こいつの言うことはもっともだろう。だが、こんなにたくさんのチョコを貰っているのだ。こいつのことだから、それらを粗末に扱うとは思えない。一個一個大切に食べるだろう。ならば…
「…こんだけ貰ってるし、チョコに飽きるんじゃないのか…?」
「ぜーんぜん平気!僕、チョコ大好きだもん!」
タカ丸は満面の笑みでそう答える。…これだけチョコを貰っていて、そんなことを言えるのだから、こいつのチョコ好きは本物だ。
「見てるだけでも胸やけしそう…俺、甘いモノ苦手だし…。」
相変わらずおいしそうに板チョコをかじるタカ丸を横目に、俺は思わずぼやいてしまう。
ふと、教室で勘右衛門に言われた言葉が頭をよぎる。
「っていうか兵助さ、タカ丸さんからチョコもらいたいとか思わないの?」
…タカ丸から、チョコを貰う、か…。
「…なぁ、その板チョコ、一欠け貰っていいか?」
俺はぼそっと呟く。
「?これ?いいよ。」
タカ丸はそう言って、手に持っていた板チョコを小さく割ったものを俺に手渡してくれた。
手渡された小さな一かけらを口に含む。とたんに、カカオの香りとチョコ特有の甘さが口いっぱいに広がる。
「…おいし?」
「……甘い…。」
どこか楽しそうに聞いてくるタカ丸に対し、俺は正直に感想を述べた。分かってはいたが甘い。甘すぎる。俺にはやっぱり、この量でも十分すぎる。
「急にそんなこと言ってくるなんて、甘いモノ嫌いなくせに変なの〜!」
タカ丸は相変わらずどこか楽しそうに言葉を続ける。
「もしかして…僕からのチョコが欲しかったとか!!?」
おどけつつ発せられた言葉に、一気に体温が上昇するのがわかる。周りのお祭り気分に影響されてか、恋人からのチョコを期待してしまっていた恥ずかしさ。はっきりと己の気持ちを言い当てられてしまった恥ずかしさ。二つの気持ちがごちゃ混ぜになって、頭が軽くパニックになるのが分かる。
「…あぁ、そうだよ。」