鳥の歌
「けど、やっぱり、俺の手からすり抜けていきやがった」
思い出のなかの松陽は笑っている。
「今はもうどこにもないのなら、最初からなかったのと同じじゃねェか……!」
松陽の笑顔はいつの間にか堅く冷たいものに変化していた。あれを初めて見たとき、もう二度と動かないことにひどく驚いた。
それまでは、動くことがあたりまえだったから、こちらに向かって微笑みかけることがあたりまえだったから。銀時、と名を呼んで、なにか話しかけてくるのがあたりまえだったから。
なんでなんだよ、と思う。
銀時は手を畳の上へ移動させ、桂を放した。桂から眼を逸らし、頭を深く下げる。
「……行けよ」
桂の顔を見ずに告げる。
しかし、桂は動かなかった。
しばらく、そのままの状態が続いたが、やがて桂が右腕を動かす。
その手は銀時の顔のほうへ近づく。
叩かれることを覚悟する。
だが、その指先は銀時の頬に静かに置かれた。
涙のあとをなぞる。
思わず、その手をつかむ。
その優しい手のひらにくちづける。
「銀時」
放された手を下げながら、桂が名を呼んだ。
「俺はもう抵抗するのに疲れた」
そして、言う。
「だから、好きにしろ」