鳥の歌
三、
している間はなにも考えなくて済むからと、数えきれないほどその行為を繰り返してきた。
銀時は厠に行った帰りに、晩秋の夜のよく冷えた廊下を歩いていると、同じ軍の仲間の一人から呼び止められた。
なにかと親切にしてくれる男である。
だから、銀時は男の求めるのに応じて、近くにある部屋に行く。
「……話ってなに?」
だれもいない部屋に入ると、さっそく銀時はたずねた。
しかし、男は困ったような顔をして黙っている。
「なに、そんなに深刻な話なワケ?」
もしかして軍を脱けたいという話なのかと思った。
命のやりとりをする戦場はやはり地獄としか言いようがなく、どれほど志が高かろうが心は傷つくもので、軍から脱け戦場から去ってゆく者は多い。
「……銀時、頼みがある」
ようやく、男が口を開いた。
頼みねェ、と銀時は思う。堂々と軍を脱けるとは言い出しかねるから、こっそり脱けるのを手助けしてほしい、とかだろうかと想像した。
だが、その予想は完全に外れる。
「今夜一晩だけでいいから、俺と替わってくれ」
「はあ?」
意味がまったくわからない。
すると、男はますます困ったような顔になり、言う。
「おまえ、その、桂とできてるんだろ。俺は初めてみたときからずっと、桂のことが気になってたんだ。だから、頼む、一回だけでいいんだ。俺の想いを遂げさせてくれ」
「断る」
即座に返事した。
その上、おそらく男が目視できなかっただろう速さで、抜刀し、斬りつける。
肌までは到達しないぎりぎりで、男の着ているものを斬った。