鳥の歌
男は銀時の攻撃を避けるために後退したが、あせっていたせいか、身体の均衡を崩し、畳に尻もちをつく。
容赦なく銀時は男の引きつった顔に刀の切っ先を突きつけた。
「もし桂に手ェ出したら、こんなぐらいじゃ済まさねェ」
そんときゃ殺す、と低く凄みのある声で告げる。
男は全身が凍りついてしまったかのように動かず、声も出ないようだ。
銀時は男をにらみつけたまま、さらに言う。
「他にもテメーと同じこと考えてるヤツがいたら、伝えとけ。万が一のことがあったら、たとえ地の果てまで逃げようが、必ず追いついて息の根止めてやるってな」
刀を引いた。
すると、呪縛が解けたように男の身体から力が抜け、銀時に向かって何度もうなずいた。
部屋にもどると桂がいなかった。
銀時が厠に向かうまえにはいたのに。
湯殿に向かったのかも知れないとも思ったが、ついさっきのことが頭から離れず、一度畳に腰を落ち着けたものの、捜しにいこうと立ちあがる。
ちょうどそのとき、障子が開いた。
桂が入ってくる。
寝間着だったので、やはり湯殿に行っていたのだとわかる。
だが、湯殿に行ったにしてはやけに帰りが早いなと思った。
「なァ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ」
「湯殿でなんかあったか?」
「なにもない」
きっぱりと桂は言ったが、その眼はこちらを向いてなかった。
嘘だ、と銀時は直感する。
銀時は桂に近づく。
そして、その身体に身を寄せ、抱きしめる。湯にはつかったようで、常よりあたたかい。
「……だれに襲われた?」
「襲われてなんかない」
「なんで嘘つくんだ」
「おまえこそ、どうして嘘だと決めつけるんだ」
いちいち言い返される。
らちが明かないので、銀時は動いた。