鳥の歌
つい眼が行く。そんな顔立ちだ。
「まァ、あのじいさんがここまでしつこく追ってくるたァ、思ってなかったからな」
「そういう問題ではない」
優美な顔を持つ少年は全身から怒気をにじませ、吐き捨てた。
銀時は軽く肩をすくめる。
そして、袖口に手をやり、なかから夏蜜柑を取り出す。
「しかたねーな、これ一個やるからよ」
「いらん。それを受け取ったら俺も泥棒だ。だいたい、あのとき、おまえと一緒にいた俺はおまえの仲間だろうと思われたに違いない。顔を見られたし、俺はもう二度とあの道は通れん」
「んな、おおげさな」
「おおげさではない。というか、どうして貴様は夏蜜柑の皮をむいている?」
「そりゃ、食うために決まってんだろ。走って喉がかわいたしな」
銀時は少年の怒りを無視して、夏蜜柑の皮をむき、食べ始めた。
やがて。
「……あー、ウマかった」
一個すべてを食べきり、満足して思わずそれが口から出た。
隣で少年がため息をつく。
「まったく。松陽先生はどうしてこんな奴を拾ったんだろうな」
銀時に向けて言ったのではなく、独り言のようだった。
しかし、それは銀時も思うことだった。
なぜ松陽が自分を拾ったのかわからない。
「勉強ができるとか、向学心が他の者より強いのかと思っていたが、それらの真逆であるようだしな」
「ああ、そーだな」
「なんだその他人事みたいな返事は!」
少年はまた怒り出した。
コイツはすぐに怒るんだな、と銀時はあきれた視線を向ける。
その眼差の意味を感じ取ったのか、少年はさらに怒った。
「貴様は松陽先生に感謝するべきだ。だから、貴様は塾のだれよりも勉強し、松陽先生の誇りとならねばならん」
えらそうに説教をする。
「いいか、今日を境に心を入れかえろ」
そう命じられて、頭にカチンときた。
「勉強なんざする気はねーよ。大ッ嫌いだからな」