鳥の歌
「なんだと。貴様は学問をまなぶことのありがたさがわからんのか。この世には勉強したくても家の事情などでできない者もいるというのに」
「ああ、確かにな。だが、他の者がどうであれ、俺は嫌なんだよ。おまえにどうこう指図されたくねェ」
きっぱりと銀時が告げると、少年は不機嫌な表情で口を引き結ぶ。
勢いのついてしまった銀時はそれで話を終わらせることができず、さらに言う。
「知ることがありがたいことだって決まってねェだろ。知らなかったほうがマシだったってこともある。俺は文字どころか言葉さえ知りたくなかったんだよ。言葉を知らなきゃ、なに言われたって気にならねェだろ。嫌なこともなにも知らずに済むじゃねェか」
脳裏によみがえるのは、松陽に拾われるまえ、親や兄弟と暮らしていたころのこと。
同じ屋根の下にいるといっても、銀時はひとり別にいるような状態だった。
家族をふくめてまわりにいた者が投げかける言葉はまるで石のようだった。何度も心が打ちのめされた。
あの言葉の意味を知らなければ良かったと思う。
「塾の者が俺のことをなんて言ってるのか知ってるぜ。たまにだが聞こえよがしに言うからな。あの髪の色を見ろ、どう考えても人の子じゃない。アイツは天人の子だ。敵だ。そんなところだろ」
今よりも幼いころは、まだ天人は来襲しておらず、だから天人の子ではなく鬼の子だと言われた。
慣れている。
慣れているが、まったく平気なわけではない。
「それで、どうせおまえも他のヤツらとそんなふうに俺のこと言ってんだろ」
皮肉な口調になった。
そに直後、少年の右腕が動く。
派手な音ともに頬を張られた。
頬が痛く、熱い。
「てめェ!」
カッとなって、にらみつける。
少年は立ちあがった。
「おまえは大馬鹿者だ! 言葉を知らなければ、嫌なことだけではなく、良いことだって知ることができないではないか!」
「良いこと? んなもん、だれが言うんだ」
「結局おまえはそうやっていじけていたいだけなんだろう。良いことを言われたって、そうやって、耳をふさいでたんだろう」