鳥の歌
「おまえみたいな育ちの良いお坊ちゃんに、俺のなにがわかるんだ!?」
「ああ、わからない。おまえと話をするようになったのはついさっきのことだ。たいして話をしたことがないのに、わかるわけがない」
その眼は真っ直ぐに銀時をとらえる。
「それに俺はおまえが言ったようなことを言ったことはないし、思ったこともない、ただの一度もだ!」
感情の高ぶりが全身からあらわれ、迫力があった。
しかし、次の瞬間には顔を背け、さらに身体の向きを変える。
少年は肩を怒らせて歩き出し、去っていく。
その堅い表情で覆いつくされた横顔を、銀時は見るつもりはないのに、つい、見てしまっていた。
その夜、自分たちを追いかけてきた男性が松陽と銀時の暮らす家へとやってきた。
男性はやはり、銀時が塀を登った家の家長であり、あの夏蜜柑の木の持ち主だった。
銀時の髪の色ですぐにだれかわかったそうだ。
さんざん文句を言われ、松陽は皮肉まで言われていた。
男性が帰ったあと、銀時はこの家を出ていこうかと松陽に問うたが、松陽はそれは困る寂しくなるからと笑った。
翌日。
松陽の講義が終わり、生徒たちは家へと帰って行く。
高価そうなきものを着た、綺麗な黒髪を頭のうしろで束ねた少年の背中を、銀時は追う。
「おい!」
呼びかけると、足が止まり生真面目な顔が振り返る。
その横に銀時は並ぶ。
「なァ、おまえんちに昨日のじいさん来たか?」
「……いや」
少年は首を横に振った。
「なら、いい」
「貴様のところには来たのか?」
「ああ」
銀時がうなずくと少年は眼を伏せ、眉をひそめた。
ふと、少年の考えていることがなんとなくわかる。
だから。
「まァ、おめーは巻き込まれただけだってわかったんじゃねェ? つーか、実際そうだったし」
軽い調子で言った。