鳥の歌
二、
そこにいるような気がして、呼びかけそうになった。
けれどもすぐに錯覚だとわかり、どうしようもなく気分が沈む。
松陽が死んで、五日過ぎた。
思想犯として処刑されたのだ。
処刑されるまえにしばらく牢獄にとらわれていたから、その間この家にはいなかったのだが、あたりまえのことながら、死んだあとのほうが喪失感は大きい。
たまについさっきのように松陽が死んだことを忘れて行動して、そのぶん現実を思い知らされて、嫌だ。
「クソッ」
ひとりだからだれに向かってでもなく、銀時は吐き捨てる。
そのとき、玄関のほうから訪れを告げる声がした。
放っておこうかとも思ったが、畳から起きあがる。
玄関に行く。
戸を開けると、外には桂が立っていた。その向こうは薄い闇に包まれている。少しまえまではまだ明るかった時刻なのだが、最近、日の暮れるのが早くなった。
「入っていいか」
「どーぞ」
返事したあと、銀時は踵を返し、部屋のほうへと向かう。背後で戸を閉める音がして、そのうち、桂が付いてくる気配がした。
部屋に入ると、畳に腰を下ろし、胡座をかく。
桂は銀時の正面に正座した。
しばらく、お互い、なにも言わなかった。
やがて、桂が沈黙を破る。
「高杉のことを聞いたか」
「あ?」
「左眼を刀で突いたそうだ」
そう銀時を真っ直ぐに見て告げた。
「……あとを追うつもりなら、片眼潰したってしかたねェだろ」