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竜ヶ峰帝人の困惑

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「・・・それで、なんでここに連れてきた」
「ワゴンが見えたから」

眉間の皺がものすごいことになっている門田が、腕を組んで深い溜息をついた。
軽く「すまん」と言いながら静雄がワゴンの中に臨也を投げ捨てる。

刺されたので思わず頭を殴ったら、まさかの一撃で昏倒したのだ。

(避けると思ったんだが・・・)

と考える静雄だが、今日のあの姿を見せていた臨也が静雄の一撃を避けれるのだと判断していたのだとしたら、よほど臨也に興味がないのだろう。
他の誰が見ても無理だと言ったはずだ。
とにかく反撃してしまったものは仕方ない。
新羅のところに連れて行こうかと肩に担ぎあげたところで、通りのほうにワゴンが停まっているのが見えたのだ。
丁度いいとばかりにドアを開けられてしまった門田が、持ち前の兄貴分的包容力によって受け入れてしまった。

「ワゴンが見えたのはわかった。で、なんで臨也がこんなこと・・いや、静雄がやったんだな?」
「あぁ。こいつ竜ヶ峰に捨てられてヤケになって何かで頭かち割ろうとしたんだ」

色々と歪曲されている。
が、静雄がとても真面目な顔でぼそぼそと言うものだから、なんとなく説得力があった。
しかも天敵である臨也を静雄が助けているのだ。
よほど臨也が可哀そうな状況だったのだろうと想像させてしまう。

(失恋でヤケに・・・こいつも人間だったんだな)

と熱くなった目頭を押さえる門田である。
が、そこで「ん?」と首を傾げた。

「竜ヶ峰?」
「竜ヶ峰」
「・・・臨也と付き合ってんのが、竜ヶ峰?」
「あぁこいつがフラれた」
「きゃぁぁーーーーーっ!!!BL!BL!!それなんてBL!!?」

ワゴン内で、臨也の頬を突いて遊んでいた狩沢が、そこで絶叫をあげた。
いじくり倒していた臨也を踏み越えてワゴンを降りると、興奮しながら静雄ににじり寄る。

「みかぷーとイザイザが!?あぁんなんでもっと早く言ってくれなかったの!っていうかイザイザはシズシズのこと好きだと思ってたのにー!」
「か、狩沢さん!それは言っちゃ駄目っす!やばいっす!」

ドアの前に狩沢が立っているせいで降りれない遊馬崎が臨也の腹の上に乗っている。
ぐふぅ・・という音が臨也の口から漏れた気がしたが、今は狩沢を止める方が先決だった。

「そういえば前にイザイザのこと聞かれたことがあったわね・・・つまりミカイザ!?ちょ、それなんて俺得!?」
「え、俺得なんすか!?マジッすか!?」

止めるはずの遊馬崎が思わず突っ込む。
こういうときキレそうな静雄は、狩沢の言っている意味がよくわからずぼんやりとしていた。
ワゴン車と渡草にとっての幸いである。きっとキレたら一番に犠牲になるのはワゴン車のドアだ。
ぎゃいぎゃいと話し合いと言う名のカップリング論争(論じているのは狩沢だけだが)を、先程より重い溜息を吐きながら門田がストップをかける。

「考えたくはないが・・・つまり、竜ヶ峰と臨也が付き合っていて、臨也が振られておかしくなったんだな?」
「あぁ。ノミ蟲の野郎はいつだっておかしいけどよ」

ふぅっと息を吐いて、「じゃあな」と静雄は踵を返した。

「お、おい!?こいつ置いてくのか!?」
「すまん・・けどよ、俺がここにいてそいつが目ぇ覚ましたら、たぶんワゴン車がやべぇことになるぞ。頭殴ったし、もしかしたらいつものいけすかねぇヤツに戻ってるかもしんねぇし」
「それは困るが・・・ここに置いていかれても困るんだが」
「わりぃ。今度なんか奢る」

そう言い捨てて静雄は逃げるように去って行った。
おそらく臨也と同じ場所にいるという行為にそろそろ限界が来ていたのだろう。
後に残されてしまった門田が「どうすんだよ・・・」と心からの声を口から漏らしていたが、狩沢が明るく

「あ!イザイザ起きたよ!」

と報告するものだから、静雄を追いかけることもできなくなってしまった。

作品名:竜ヶ峰帝人の困惑 作家名:ジグ