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竜ヶ峰帝人の困惑

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帝人の家出宣言の数十分後、岸谷家では祝杯があげられていた。

『帝人が家に来てくれて嬉しいぞ!なんならここにずっと住むと良い!』
「うんうん、セルティが喜ぶことは僕にとっても喜ばしいことだよ!ははは、なんだかセルティと私に子供ができたみたいだよね!」
「あ、ありがとうございます・・・すみません、突然」
『謝ることない!むしろ嬉しい!』

PDAにそう打つと、セルティは影で音符やらハートマークやらを作りだして嬉しさを全身で表現した。
そんなテンションの上がっているセルティを見て、新羅もぱちぱちと拍手をしている。

臨也を殴りつけ気絶させたあと、矢霧誠二メモリアル(厳選特別バージョン)によって買収した波江をすぐさま呼び出し、後を任せた帝人はその足で岸谷家へと突入した。
突然の訪問だったが、人の良い人外とその人外ラブの闇医者夫婦はとてつもなく喜んで帝人を受け入れてくれた。

(セルティさんたちには悪いけど・・・やっぱり、少し考えたい)

臨也を嫌うことはできないと思う。あの非日常を作り出せる存在は、帝人にとってもダラーズの情報屋としても決して失えないものだ。
臨也のことを、帝人が何よりも愛する非日常、それを帝人を繋ぐ架け橋のようなものだと思っている。
とても我儘な自己の利益ばかりを見た考え方ではあるが、帝人はそれを罪悪だと感じるほど年齢を重ねてはいない。

(あの鬱陶しささえどうにかなればなぁ・・・)

それだけを我慢して戻るべきなのか。
それとも、そのためだけに臨也の存在を切り離すのか。

帝人だって本当はわかっているのだ。自分が決して後者を選ばないだろうということは。


「それで、なんで家出なんて?やっぱり臨也のやつがムカついたからかな?」

あっけらかんと笑う新羅に、帝人もにっこりと微笑んだ。

「はい!これで少し頭冷やしてもらえたらと思いまして!」



『実際臨也とはどうなんだ?別れないのか?』

好奇心丸出しでPDAを見せてくるセルティに、帝人は「うーん」と唸った。
現在、セルティが作った夕飯(シチュー)を新羅による「美味しいよセルティ!こんな美味しいシチューは生まれて初めて」云々と続く演説を聞きながら食べ終え、ソファでテレビを見ている。
新羅はシャワーを浴びてる最中だ。

「別れ・・・るつもりは、そんなにないんですけど。今の臨也さんってどこかおかしい感じがするので、一回これで頭冷やしてもらって、付き合う前の普通の情報屋さんに戻ってくれたらなぁとか思ってるんですけど」
『そんなに鬱陶しかったのか?』
「そりゃもう」

ズルズルとコーヒーを啜る。
ミルクたっぷりのそれはセルティが淹れてくれたものだ。

『やっぱり別れた方がいいんじゃないか?少なくとも良い奴ではないし、あくどいし、騙すし、碌でもないし」
「あ〜・・・」

良い人代表のようなセルティだが、臨也に関しては次々と酷評を降ろす。
まぁそれだけのことを臨也がやってきたわけで、そう周りの人間から臨也が思われているのは当然のことなのだが、

(・・・でも、僕にとっては、悪い人じゃなかった)

ロミオとジュリエット効果、というものを知っているだろうか。
周囲の人間が反対すればするほど、その恋は燃え上がるというものだ。
臨也はともかく、帝人にはこの効果は案外当てはまる。何しろこの恋愛、周囲から反対しかされない。

「で、でもセルティさん。臨也さんにも良いところはあるんですよ」
『どんな?』

以前、静雄に臨也を勧めようと思った時は、顔と食材しかいいところはなかった。
現在、臨也と付き合ってから、臨也の良い部分が増えたかと言うと

「その・・・お金あるし」
『それと?』
「・・・ご飯作ってくれるし。色々買ってきてくれるし」
『・・・・・それと?』
「あ、えっと・・・しゅ、宿題手伝ってくれます!」
『・・・もう一声!』
「えっ?えぇ〜・・と、その・・・じょ、情報に困らなくなりました!」
『臨也じゃなくてもいいだろう!?』

くっ・・と唇をかみしめる帝人。

(これ以上思いつかない!)

というより、あまりアピールポイントとして役立たなかった。
思案顔になる帝人にセルティは肩を落とした。

(帝人は悪い奴じゃない。むしろ良い奴なのに、なんで臨也なんだろう?趣味が悪いのかな)

帝人がたどり着いた思考に、セルティも到達する。
首はないが、重苦しい気持ちでため息をつくような仕草をすると、ニュース番組からバラエティにチャンネルを変えた。

作品名:竜ヶ峰帝人の困惑 作家名:ジグ