奇跡の鐘の音
「知っていたよ……、私は……」
そして、刃をベールゼブブの背に突き立てた。
「……サリエル……」
「お前こそ、私の気持ちを、知らなかっただろう?」
もう、刃を握る手は必要なかった。サリエルは両腕を伸ばし、愛しいただ一人の男の背を抱き寄せ、耳朶に愛を囁いた。
「あいして、いる……、お前だけを、ずっと……」
「サリエル」
「ともに……」
それが、サリエルの発することの出来た最後の言葉だった。ベールゼブブを抱いた腕からは力が抜け落ち、抜け殻になった。
「ああ……」
ベールゼブブは力を無くしたサリエルの体を抱き寄せ、もう一度唇を奪った。舌は反応を示さず、無力だった。
「長かったよ……、サリエル……。こうしてずっと、お前だけを、私は求めてきた……」
既にベールゼブブも飛ぶ力を持たず、重力に従って二人の体は落下していった。
力尽きても、ベールゼブブはサリエルの体を離そうとはしなかった。