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奇跡の鐘の音

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 生気を取り戻したサリエルは戸惑った目で、ベールゼブブを見上げた。
「……どうして、私は生きている」
「わからん。サリエル、この音が聞こえるか?」
「この鐘の音は……。まさかっ」
 二人は同時に、審議の塔を見上げた。光を撒き散らす双塔は、審判が下された証だ。
「審判が下された。一体誰が」
 その答えを、サリエルは持っていた。不自由そうに身を起こすが、痛みは無い。ただ体が石のように重く、思うように天使の力が使えない。
「これは、奇跡だよ、ベールゼブブ」
 サリエルは堪え切れず、愛する男の腕の中で涙を零した。他人に涙を見せたのは、これが初めてだった。
「神は居なかったのではない」
「サリエル……」
「私達に奇跡をもたらしたのは、おそらく本当の神だ。我々に命じていた神のシステムではなくな」
「……サリエル。私を、見てくれ」
 思うように顔を上げられないサリエルの顎を、ベールゼブブは優しく掬い上げた。
「お前なのか、ベールゼブブ……」
「不思議と心が穏やかだ。サリエル。あの日のまま、そして堕天した私も、この中に居る。……サリエル、何故私を見てくれない?」
 サリエルは瞳を重ねることを拒んだ。
「……私はお前を裏切った」
「裏切りなどと。私にも告げさせてくれ、お前を愛していると。天にある時から、私はお前を愛していた。禁忌とわかっていながら、お前が欲しかった」
「ベールゼブブ……」
「口付けが欲しい。お前からの」
 奇跡の鐘の鳴り止まないまま、サリエルは恐る恐る、ベールゼブブの唇に触れた。癒すためだけのものだったはずの唇が触れると、官能の波が体を駆け巡る。
「んっ、……ぅ、んっ」
「サリエル」
 稚拙な口付けを絡め取り、ベールゼブブは長年の想いを篭め続けた。
「……愛している。サリエル」
「私もだ、ベールゼブブ」
「……行かねば、ならないな。立てるか?サリエル」
「ああ。平気だよ」
 昔に戻ったように、二人は微笑みあった。立ち上がり、赤銅の土の彼方へ二人は行かなければならない。この鐘が鳴り終わるまでに。
 その先に何があるのかは、わからない。だが行かねばならないと、二人とも天使としての本能で知っていた。
「ベールゼブブ、」
「なんだ?」
「………手を、繋いで構わないか?」
 向かう先には巨大な門が見え始めていた。
「ああ。共に行こう。サリエル」
作品名:奇跡の鐘の音 作家名:七月かなめ