奇跡の鐘の音
ただ欲望のまま、肉を喰らい、他者を堕落させることを至福と感じるようになる。そこに、愛など無い。
サリエルは恐れる。仮に自分が地獄に足を踏み入れて、ベールゼブブが以前のままで居るのかどうか。悪魔大公は残虐な力で天界への侵略を狙っていると噂に聞く。
あの頃の彼はもうどこにも居ないのではないか。サリエルは動くことの出来ない足と、飛ぶことの出来ない役立たずの羽を疎ましく思った。
なによりも自分自身が、脆弱な存在だった。
「神よ…………」
鴉に自分の姿を重ねていると、サリエルは気付いていた。どんな結果が出ようと、彼らの行く末を見守ろうと、サリエルは誓った。