die vier Jahreszeite 004
でも,別にそれが嫌なわけじゃない。
レジ入って客の相手するよりも品出しや掃除してる方が気が楽だしな。
「あれ,頬っぺた赤い。何,走ってきたの?」
「自転車がパンクしてたんだよ」
「うーわ,クリスマスなのに災難だね」
「知るかそんなん」
「知るかって云われても,日付は動かしようがないからね。あ,冷蔵庫にいつもの確保してあるよ。それから今日はこれ被って店入ってね。よろしく」
云うなり飛んできたのは,真っ赤な帽子。
窄まった先端に白いポンポンがついてるそれは,どこからどう見てもクリスマスにつき物の髭面ジイサンが被っているあの帽子だった。
「冗談だろ?」
「それが嫌ならトナカイの着ぐるみ着てもらうことになるけど」
ちゃんと赤鼻のマスクも用意してあるんだ。そっちの方がいい?
マシューの言葉に俺はげんなりしながらも大人しく降参した。
「……わーったよ。被りゃいいんだろ被りゃ」
「よろしくね」
にこっと人懐こい笑みを残して店に戻っていくマシューの背中を恨めしげに見ながら俺はため息を吐く。
なんだってこんな浮かれたもん被らなきゃなんねんだよ。クソ。ムカツクぜ。
とは云え下っ端のバイト風情に拒否権があるわけはなく。
俺は腹立ち紛れに制服のポケットに丸めた帽子を突っ込むと休憩室に続くドアを蹴り開けた。
冷蔵庫の中にはいつものサンドイッチが二つとサービスのつもりなのか小さなケーキが入っていた。
備え付けのポットでインスタントのコーヒーを淹れ,それを啜りながらサンドイッチを食べる。
ミックスサンドを食べるときは,ツナ・卵・ハムの順。
賞味期限が切れてしまった食品は基本的に廃棄と決まっているが,バイト限定でこうやって融通を利かせて貰える。
面倒なことも多いが食費が浮くというのは結構でかい。
金に困ってるわけではないが,それに頼り切ることもできない身とあっては助かることこの上なかった。
サンドイッチを食べ終えて,今度はケーキに手を出す。
砂糖でできたサンタクロースの飾りがついた小さなケーキは,ひたすら甘かった。
脳裏に浮かんだのはフランシスがたまに持ってくる菓子たち。
女にマメな性質だからか,それとも単に好きなのか,フランシスは気まぐれに菓子を作っては学校に持ってくる。
それがまたよく出来てて見た目も細かきゃ味もイイもんだから,いつしかすっかり舌が肥えちまった。
作品名:die vier Jahreszeite 004 作家名:葎@ついったー