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Ladybird girl

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 走りながらフランスが言ったこともわざと忘れてしまう。なのに繋いだ手だけはどうしても消えずに残ってしまう。
 またぞろ乾いてきた喉に触れながら、思い出していたのはさんざ見てきたイギリスの指のことだった。
 とこうしているうちに、何時の間にかイギリス邸の前に着いていて。
 暗く夜露に濡れた植物でいっぱいの庭。どこか猥雑さを纏って壁やあずまやに絡みつく蔦。密やかな土のにおい。夜の中で虚しく響くチャイムの音。現れたイギリスはナイトガウンの上に羽織るはずだったらしいケープを片手に、ぱたぱたとスリッパの音を立てて駆け寄ってあわてて鉄格子の扉を開ける一方で取り留めのない小言を口にする。何故かそのすべてが、アメリカには分かっていたみたいたいだった。
「まったくいったいなんのつもりなんだ。いきなり来なくなったかと思えばこんな時間に……そりゃあ、すきなときに来ていいとは言ったけど、常識ってものが……ああそれともアメリカに常識なんてものを期待した私がばかたったのか。そうに違いないな。もう、このばか。ほら、身体を冷やすといけないんだから、さっさと入って。今日は紅茶はなし。お風呂でしっかりあたたまったらもう寝なさい。分かったな?ほら、返事」
 だから鍵から離れて引っ込もうとしたイギリスの手を握ってみた。



作品名:Ladybird girl 作家名:しもてぃ