神田襲撃事件 前編
アレンは今までにない冷ややかな目でラビを見た。
完全に別の生き物を見るような目で。
考えが読まれたのだろうか、とラビはアレンに笑顔を向ける。
「ユウは譲らんさ、アレン」
「いらないですよ、むしろ」
と、妙な会話が二人の間でなされていた。
「とりあえず、私は兄さんのところへ行って来るからラビは神田を連れて部屋まで戻ってくれる?」
「神田の部屋でいいさ?」
「どっちでもいいわ。とりあえず、人目につかないところに神田を隠しておいて?」
「俺はそんなに・・・」
やっと口を開いた神田にリナリーが静止をかける。
「いい!?神田!ちゃんとずっとラビと居るのよ!?分かった!?」
「・・・分かった」
リナリーの覇気に気圧されたのだろうか、神田は口を噤んだ。
「アレンはどうする?」
「リナリーについていきますよ。神田が襲われたって事はエクソシストが狙われてるって事かもしれないですし」
そして、アレンとリナリーは科学班のラボへ戻り、ラビと神田は神田の部屋へ向かった。
いつもと同じ、割れた窓。
窓際の小さなテーブルに置かれた蓮の花の置物。
簡素なベッド。
部屋についた途端ドサッ、っとラビは神田をベッドに押し倒した。
「・・っ///いきなり盛るな!エロ兎!」
普段と違い身体が小さいせいか、いつも以上に力がない。
押し返そうとするが全く動かないラビの身体。
(いつも押し返そうとしても動かないけどな・・)
「ユウ・・・誰に何されたさ・・・・?」
「さっきリナリーから聞いただろ!?俺は覚えてないんだ」
神田は未だにラビの体の下で暴れながらラビに返事をした。
ラビの顔が見えた。
目が、真剣だった。いつもより。
神田は体の動きを止めた。
「とにかく、ユウ。俺の傍に居てさ・・?」
「・・分かった、ラビ」
ベッドの上で互いに見つめ合う二人。
任務の被ってない日に過ごす二人の夜の空気、それと同じ様な。
「・・ら、ラビッ、今は昼だから・・・っ」
「あれー?もしかして意識してたさ?」
「・・・・ッッ///」
「そういえば、ユウは今女の体なんだよね」
と言うと、ラビは神田の唇に自分のそれを合わせた。
何度も軽く啄むように。
それは段々と濃厚なものへと変わっていく。
「・・ッ・・ハァ・・」
「なんかいつもより甘い気がするさ」
唇の端からどちらのものか分からない涎を流し、顔を赤らめている。
先程までラビが腕を押さえていたが、こうすることによって彼の、いや彼女の体に力が抜けることは彼が一番良く知っていた。
顔の横に置いていた手を膨らみへと向けていく。
そして、そのままそっとそれを掌で包み込んだ。
「ッ・・ィヤッ・・・」
「嫌じゃないでしょ、ユウ」
そして再び深い口付けを与え、膨らみに力を入れた――――その時、
「神田君、ラビ!エクソシス・・・・・」
神田の部屋に入ってきたのはコムイであった。
ヤバ、と思いユウを見るとやはり顔を真っ赤にし、おまけに目に涙まで浮かべていた。
シャツははだけていて、体勢もいかにもという感じである。
コムイは少し固まった後、いつもの表情で先程の続きを言った。
「エクソシストに緊急の召集、場所は司令室だよ」
じゃあまたあとでね、とコムイはドアをパタンと閉めた。
ラビは神田を見た。
一層頬を赤く染め、わなわなと震えていた。
「ゴメン、ユウちゃ・・・」
ドゴォっと神田の蹴りがラビの鳩尾にヒットした。
いくら女になってしまったとはいえ、かなり効く蹴り。
ラビはベットの端で踞った。
「もう、二度と部屋へ入るな・・・・」
「ちょっ、それだけは勘弁!ユウちゃんっ!!」
「うるせぇ・・・だから嫌だって・・言っただろうが・・・」
言葉がゆっくりとなる。
込められた怒りがそれを伝える。
「と、とりあえず司令室行こっ」
ラビは汗を浮かべた笑顔で神田に手を差し出す。
神田はそれを無視して六幻を手に取り部屋を後にした。
「ちょっ、置いてかないでー!ユウー」
「ファーストネームで呼ぶんじゃねぇっ!!」
「まぁ・・これが神田くん・・・?」
「ずいぶんと小さくなったな・・・」
「本物の女性のようであるな・・・」
司令室にはアレン、リナリー、ミランダ、マリ、クロウリー、ティエドール元帥が集まっていた。
「本物の女性になってしまったんですよ、クロウリー」
アレンはクロウリーの肩に手を置いてハァ、と溜め息を吐く。
「ユーくん・・・こんな姿になってしまって・・・・」
ティエドールは涙を流しながら神田に抱きついた。
「ちょ、抱きつくな・・・いで下さい」
神田は顔を顰めて、手を伸ばして抱きついてくる元帥と距離をとろうとする。
ラビはすかさずティエドールと神田の間に滑り込み神田を抱きしめる。
「止めて下さい、ティエドール元帥」
ラビは元帥にこれは俺のだ、と主張するかのように言う
ティエドールははっとした表情で、その場に佇んだ。
ラビに抱きしめられた神田は頬を朱に染める。
「マーくん・・・ユーくんがお嫁にもらわれてしまうよ・・・」
「元帥・・・」
周りはこの茶番を温かい目、それか冷たい目で眺めるのであった。
もちろん、一番冷たい視線を送っているのはアレンである。
(『お嫁』って言ってる時点でおかしいだろうが!)
神田は心の中で悪態をつく。
「お前も抱きつくなっ、クソ兎!」
そう言い、ラビの体に肘で思い切り攻撃する神田。
先程に続き鳩尾にヒットした。
「とりあえず、教団内に居るエクソシストはこれで全員かな?」
「兄さん!」
「コムイ!」
神田が眉間に皺を寄せ、いかにも反論のあるような目でコムイを見る。
ミランダやクロウリーはおろおろするばかりである。
「どうして、この場に元帥がいるんだ・・?」
「いや、神田君の一大事を聞いたらちょうど教団の近くに居たみたいでお戻りになったんだ」
ラビがそれを聞いて、あることに気付く。
「なぁコムイ。じゃあさ、さっき俺らに召集かけるのわざわざ部屋に来なくても元帥みたいにゴーレムで連絡すればよかったんじゃね」
「いやー、たまたま近くを通りがかったからさ」
こっちの方が早いでしょ、とコムイはニッコリと笑みを浮かべながら返事をする。
(ワザとか・・・?)
ラビは心の中で呟く。
「別に見られて困るような事してたわけじゃないでしょ、二人とも」
アレンは早く終われ、とでも言うようにラビと神田を見た。
神田は僅かに顔を赤くするが、ラビの体がそれを隠した。
「そんな事はどうでもいいんで、早く始めませんか?」
「そ、そうであるな。アレンの言う通りである」
痺れを切らしたアレンがコムイに申し立てる。
ごめんね、とコムイは返事する。
「今回召集したのは神田くんのことについてなんだけど、みんな神田くんの体の変化についてはもう聞いてますか?」
「リナリーから大体聞きました」
マリがそう答え、他のみんなも頷き返した。
「僕も最初は神田くんだけが狙われてると思ってたんだけど、アレンくんの言う通り、神田君が襲われたって事は、エクソシストが狙われてるかもしれないという事だ」