神田襲撃事件 後編
だがエクソシストでもある彼は普段から鍛えており既に普通の人より力はある。
なのに発動後の制裁、痛いじゃ済んでいないだろう。
ありがと、とラビはアレンの横の席に腰掛けトレイにのせたパスタに手をつける。
「やっぱりコムイさんは以前にそういう薬品を開発したことがあるみたいでした」
「ほんとごめんね、兄さんってば・・・」
とリナリーは申し訳なさそうにラビに頭を下げる。
「いいって、リナリーが悪いんじゃないさ」
「でも、それがそういう経歴で神田のもとへいったのかが分からないんですよ」
アレンは大量の食事を口の中へつぎ込み話を続ける。
「そのコムイが開発したっていう薬品はどこにあるんさ?」
「科学班の備品室にあるみたいですよ」
有害すぎて処分するにも出来ない薬品がたくさんあるらしいです、とアレンは続ける。
ラビは入団したての頃を思い出した。
ジョニーやタップ達、科学班員がそこへコムイの開発した薬を隠しに行くところを偶然目撃したのだ。
出る、とか言って誰も近づかないからここへ隠すのだ、と。
「じゃあさ、最近そこへ出入りしたやつを探せばいいんじゃん」
ピッとラビはアレンにフォークを向ける。
そこから薬品を持ち出したヤツが犯人に間違いはないのだから。
アレンはポテトグラタンを食べながらラビに答える。
「・・・・それが、リーバーさんなんですよ」
「なんかよく分からなくなってきたわね」
とリナリーが難しそうな顔をして言う。
「さっきリーバー班長が兄さんに渡した薬品があったでしょ?アレを取りにそこへ行っただけみたいだから・・」
ラビは考えた。
ブックマン見習いとして、ユウの恋人として早く解決せねばと。
「!じゃあさ、その科学班の備品室ってとこに一回行ってみればいいんさ!」
ラビは閃いた、とでもいう風な顔つきをしている。
「何しに行くんですか?」
「その薬の名前をコムイかリーバーに聞いて、その薬がまだそこにあるか確かめに行くんさ」
「あっ、なるほどねっ」
リナリーが嬉々とした顔でポンっと手を叩く。
「ンで、その備品室に薬がまだ残ってたらコムイのせいじゃなくて、その薬があったら誰かが何らかの別の方法でユウをあんな姿にしたって事さ」
「もし薬が無かったら・・・」
「コムイのせいでもあり、薬を飲ませたのはリーバーの可能性大ってコトさ」
一番最近あそこに出入りしたのはリーバーなんだろ、と。
「それに、コムイの薬品を隠すやつらは決まってるしな」
ラビは頭にあの日見た科学班員の姿を思い浮かべた。
振り出しに戻るか、大きく進展するか二つに一つ。
アレン、ラビ、リナリーの三人は食事を済ませ、問題の科学班の備品室へと向かった。
そこへある人物が三人に声を掛けた。
「ちょっとー、いいかしらっ!?」
「ジェリーさんっ」
黒の教団本部の料理長、ジェリーである。
彼女(彼)の作る料理は何でもうまい。
大喰らいのアレンも絶賛である。
「あとでリーバーにこれ取りに来るように言ってくれるー?」
と、ジェリーは持っている袋を掲げながら言う。
分かりました、とアレンは笑顔で返事をする。
このあたりはやっぱり紳士だなと思う。(たとえそれが仮のものであったとしても・・)
「さっき渡したコーヒー豆、コムたん専用のじゃないヤツなのよーって」
違う袋渡しちゃって、とジェリーは続ける。
アレンは分かりました、と返事をした。
「あの洗剤よく効くからまた持ってきてくれる、って聞いといてくれないかしら」
アレンはニコと笑顔で返事をし、ラビ、リナリーと共に食堂を後にした。
・・・・体が熱い。
目を開けると見慣れた様子の光景が目に入った。
(ここは・・・俺の部屋か・・・)
暗い冷たい自室。
その部屋に取り付けられた簡素なベッドの上で自分が寝ていた事に気づくのに時間はかからなかった。
神田は緩慢な動きでベッドから起き上がる。
体が小さくなったせいでブーツのサイズが合わず、あれからずっと素足だった。
ひんやりとした床に素足が触れると思わず身震いした。
六幻を手に取りひた、ひたと扉に向かって歩を進ませた。
そのままギィィと扉を開け小走りで向かった。
神田は今の自分が何を考え、どうして行動しているのかよく分からなかった。
だが、本能の赴くままに進んでいった。
歩み慣れた廊下を。
研究室を出て昇降機(エレベーター)を使って移動する。
意外と人通りのある階の奥の奥。
廊下の突き当たりの左側にある少し窪んだスペース。
暗くてよく分からないが、よく見ると一枚の扉がある。
ろうそくの火をあてるとはっきりと見える。
『科学班 備品室』。
「懐かしいさ・・・ココ」
二年ぶりぐらいさ、とラビは小さく呟く。
一同は例の備品室前に来ていた。
「ラビ、何でした?あの薬の名前」
アレンはガチャガチャと扉に掛けられた鍵を外しながらラビに聞いた。
「セイコンバント薬さ」
アレンによって鍵の解かれた扉をラビは押しながら答える。
「というわけだから備品室の鍵を貸して、兄さん」
食堂を出てすぐ、彼らは備品室に向かったのではなく一度科学班の研究室、ラボを訪れていた。
あまりに危険な薬品が保管されてるため鍵が掛けられているだろうと予測しての事だった。
そのラビの予測通り鍵は掛けられていた様であった。
「さっきも言ったけど、リーバー班長が一番最近あそこに入って・・」
「それはコムイさんに制裁を加えたときに聞きましたよ」
アレンはにっこりと笑顔を浮かべながらコムイに言い放つ。
コムイは左手、両足に包帯が巻かれ、顔に大きな湿布が張られていた。
イスをがたんと揺らし恐る恐る返事をする。
「だから、鍵はまだリーバー班長が持っているんだ」
「一番最近って・・・」
ラビはコムイの机をバンっと鳴らして問いかける。
翡翠色の瞳には彼の髪と同じオレンジ色の炎がチラチラと燃えているようである。
「今日、彼にこの薬を取りに行ってもらったんだよ」
机の上に置いてある薬品の一つを手に取り彼らの前の掲げる。
先程エクソシストの緊急招集の時にリーバーがコムイに渡したあの薬品。
掌サイズのカプセルに青色の液体が入っている。
「じゃあ、コムイ。コムイが開発した薬の名前って・・・」
「それが僕も覚えてないんだよねー☆」
と眼鏡の横でピースをしながらお茶目に答えるコムイ。
今その態度は彼らをイラつかせるだけとも知らず。
「『セイコンバント薬』ですよ、室長」
室長のハンコが必要な書類をわっさり抱えて机へ向かってくる本部科学班員の一人。
「ジョニー!」
アレンは慌ててジョニーに駆け寄り彼の運んでいた書類の束を半分ほどを持つ。
「ありがとう、アレン」
「よく覚えてたわね、ジョニー」
リナリーは感心した様子でジョニーを見る。
ラビも若干驚いた様子であった。
「だって、その薬を隠しに行ったのは僕たちだからね」
「じゃあ、ぼくのせいじゃないよねっ!?」
とコムイは確かめるように言う。
「何言ってるの、兄さん」
「元々その薬を開発したのはコムイさんなんだから一番悪いのは間違いなくコムイさんですよ」