神田襲撃事件 後編
まぁその薬が犯行に使われたかどうかは今から確かめに行くんですけどね、と。
「リーバーに鍵もらってきたさー」
いつのまにか輪から離れ鍵を入手していたラビ。
そして、鍵を手に入れた三人は備品室へ向かうのだった。
扉を開けると、部屋に充満していた大量の埃を含む空気が扉に向かって吹いてきた。
リーバーが入る前、長い間開かれてなかったのか少し黴臭い。
「うわっ、埃だらけですね・・・」
「しばらく窓と扉を開けておいてもいいかしら」
アレンとリナリーは顔を顰める。
普段から書庫に篭り、この程度の埃には慣れているラビは既に目的のものを探し出している。
先程のリーバーとの会話を思い出しながら。
「リーバー、科学班の備品室の鍵持ってるだろ?貸してさー」
「いいけど、何探しに行くんだ?」
ろくなもんないぞ、とリーバーがラビに鍵を渡す。
「セイコンバント薬ってヤツさ」
「・・・ああ!アレか!」
思い出した、とでもいう感じである。
気になるところは僅かに顔が引きつっていた点。
「何かあんの、リーバー」
「ほんと室長の開発するのは有害すぎて処分が出来ないからな・・・」
掌で顔をおおい今までの苦労を思い出している。
指の隙間から見える目からはキラリと光る涙が見えた気がした。
「アレな、確か・・・・」
ラビは会話によって得たヒントを伝える。
「アレン、リナリーっ」
カーテンを開け、窓を開けるアレンとリナリーに声を掛ける。
「セイコンバント薬は青色の液体らしいさー!」
「分かりましたー。探してみますー」
そして、彼らの大捜索が開始されて数十分後。
「・・・見つけたさ!」
ラビの声が部屋中に響いた。
ラビの元へアレンとリナリーが駆け寄る。
「見つかったって事は犯人はコムイさんじゃない・・・」
「間違いなくコムイって事さ!!」
ラビは大量の薬品が置かれている薬棚を指差す。
しかし、ラビの指差す先薬品と薬品との間で何も置かれていない。
リナリーは薬棚に張られているラベルを見た。
そして振り返り、
「セイコンバント薬って書かれたラベルはあるけど、薬品そのものは無いわっ!」
「ティエドール元帥の言ってた三つ目の推理が一番有力みたいですね」
セイコンバント薬は既に誰かによって盗まれたようであった。
そして、今回ここへ来て分かったことは間違いなくコムイの手によって作られたセイコンバント薬によって神田があのような姿に変えられてしまったということである。
備品室にしっかりと鍵をかけて、研究室に戻る道を辿る三人。
「やっぱり犯人はコムイか・・・」
「ごめんね、ラビ。兄さんには厳しく言っておくから」
リナリーが申し訳なさそうにラビに謝る。
悪いのはコムイだというのに。
そして、研究室の扉の前に着くとアレンがふと立ち止まった。
アレンを後ろを歩いていたラビは急にアレンが止まったため少し驚き、
「ア、 アレンどうしたんさ」
と声を掛ける。
「・・・なんか騒がしくありません」
中、と扉に耳をあてる。
キャーという声や叫び声が聞こえる。
恐る恐る扉を開けると・・・
「あ、アレンー!」
顔を少し赤くして疲れ切った様子のジョニーが出迎えた。
中は元々書類の散乱した部屋だったが、よりひどくなったように見える。
「ラビっ、リナリーっ」
よりぐったりとしたコムイが騒ぎの中から顔を見せる。
額には汗が光って見えた。
「兄さん、どうしたの、コレっ!?」
「「早くっ・・・」」
ジョニーとコムイが同時にそう言い、同じ方向を指差した。
暗がりでもよく目の効くアレンは誰よりも早く現状を理解した。
「アレって・・・神田?」
ラビは目を見開きアレンの目線の先を、彼らの指差す先を追いかけた。
ラビとリナリーの体の動きはアレン同様固まった。
「リーバー・・」
「一体どうしたんだよっ、神田!?」
「ストップ、ストップ!」
リーバーをソファの上に押し倒しその上に乗り上がる神田。
それを最大限拒もうと片腕を伸ばし神田の右肩あたりを押すリーバー。
もう片方の腕は自分の体重を支えるためソファにがっしりとしがみついている。
この空気を換えようと頬を赤らめながらもリーバーに協力するタップ、ロブ。
タップは神田の左腕を、ロブは右腕を引っ張るが彼女はリーバーの上から退けようとしない。
女の体になったとはいえエクソシストであることに変わりはなく常人以上の力が備わっており、足の力だけでリーバーにしがみついている。
ラビには劣るとはいえ、やはりかなりの力はあるらしい。
「何で邪魔するんだっ、お前らっ」
神田はタップとロブによって掴まれた腕に纏わりつく手を振り落とそうと腕を振る。
リーバーは上体を屈め近づいてくる神田の肩を必死に片手で押し返す。
ソファの横には神田の愛刀、六幻が落ちていた。
「な、なんですかこの状況・・!?」
アレンは顔を引きつらせて尋ねる。
「さっきアレン達が備品室に行った後、すぐ神田が来てさぁ・・・」
<神田!どしたの、何か用事?>
<・・・リーバーは?>
<えっと、ほら、あそこ!>
ジョニーは先刻に起こった事を知らず、いつもと違う様子の神田に少し違和感を覚えていたが、そのまま神田にリーバーの居場所を教えてしまった。
ジョニーが神田の居た方を振り返ると、既に神田はリーバーのほうに向かって駆け出した後で。
その様子に気づいたコムイが慌てて駆け寄ってくる。
<ちょ、ジョニー!神田くん、中に入れちゃったの!?>
<え、何でですか室長?>
<みんなっ、今すぐ神田くんとリーバー班長を隔離するんだっ>
とコムイが叫び、数人の科学班が神田とリーバーの間に入ろうとするが、神田は手に持っていた六幻の鞘で近づく相手を薙ぎ払ってしまう。
<リーバーっ>
神田がリーバーの肩を掴みソファの押し付けて、その上に跨った。
さすがに様子が変だと感じたロブとタップが慌てて神田の腕を掴み、現在の状況に。
「・・・っていう感じなんだけど」
と、ジョニーは簡潔にアレン達に成り行きを伝える。
リーバーは研究室に入ってきたアレン、ラビ、リナリーに気づき声を張り上げる。
「アレン!ラビ!神田をどうにかしてくれっ」
今にも泣きそうな顔で助けを求めるリーバー。
神田の腕を掴むタップとロブも限界が近いようだ。
二人は慌てて駆け寄り神田をリーバーから引き離した。
ラビの腕の中に収められた神田はじたばたと暴れる。
「離せっ」
ギラっと射殺すような目でラビを見る。
(最近、こんな目で見られたことなかったのに・・・)
心がズキっと痛んだ。
「あの・・・」
今まで黙っていたリナリーが口を開いた。
「一回、リーバー班長に神田を預けてみたら・・?」
周りの人はぎょっとしてリナリーを見る。
リナリーは少し顔を赤らめて続けた。
「今の神田って・・・その、好きな人を追ってるだけな気がするの」
だから、ともぞもぞと恥ずかしそうに先を続けるリナリー。
「好きな人の近くに居たいだけなのよ」
ごめんなさい、今だけよラビと。