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怪盗×名探偵 短編集

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めぐるめぐるイフ(快新)



「参った」
 その発声は確かに、参った、という言葉のために存在しているかの如くぴったりと当てはまっていた。
 新一がそんな声を上げるのは珍しい。聞いてほしくない気持ちが六割、聞いて欲しい気持ちが四割というところだろう。快斗はほとんど考える間もなくその呟きに言葉をかぶせた。試しに問いかけてみてなにも返事がなければ、このことについては忘れよう。
 ハートフルなきもちを忘れてはいけない。新一がいやなことはしたくないのだ。四割ぐらいは。
「どした?」
「……灰原が」
「哀ちゃんが?」
「おい、殺されるぞ」
 というのは多分名前呼びのことだ。確かに本人の許可はまったく得ていない。どころか、そういえばそこまでまともに話したこともないような。しかし快斗にとってかわいい女の子は正義だ。そして新一はそれ以上に正義だった。全身から正しさが溢れでている。
 正しさを主張するにあたって、一歩間違えば犯罪行為になる所業だってやってのけるのだから凄い。それもしかし最終的には正義に繋がるところを見るに、人助けと人殺は紙一重であるということが非常によくわかった。
 そもそも新一は人を助けたいと思って事件を追うわけではないし。
「で、哀ちゃんがどうしたの」
 俺が推奨する呼び方なんて今はどうでもいいという風に、もう一度新一に問いかけると、新一は呆れたようにため息を吐きながら、うつろに目を泳がせた。
 いいにくい話なのかもしれない。
「言いたくなければいいよ」
「いや、別に……大したことじゃねえんだ」
「そうなの?」
「キッドのことで」
 おや。まさかこのタイミングでその名を耳にするとは思わなかった。快斗は思わず新一の方へ寄せていた身体を少しだけ離した。このタイミングでポーカーフェイスを気取っても、それは”俺が怪盗キッドです”と主張しているも同然だったからだ。少しだけ抑揚のあった心音が聞かれなければそれでいい。
 そもそも灰原が、という名前からするに、ここでキッドの名が出るのは不可解だった。
「……キッド? ってあの怪盗の」
「灰原、あいつが変なこと言うんだ」
「変なことというと」
「”工藤くんはあのドロボウさんが好きなのよ”とかなんとか」
「ドロボウさんじゃなくてカイトウさんね」
 ん? 今なにか凄いことを聞いたような気がする。訂正している場合じゃない。
「え、好きって?」
「俺が訊きてえ」
「新一はキッドのことが好きなのか」
「んなわけねえだろ!」
「だよなあ」
 驚きはすれど信憑性に欠く話だ。
 好き嫌いというよりか、追いかけずにはいられないだけのような気がする。かといって、他にもっと謎めいた事件があればそちらにすっ飛んでいくのだし、怪盗キッドに対する執念なんて些末なものだろう。いや、些末は言い過ぎか。
 些細かな。
 些細とはいい言葉だ。やはり、なかなかどうして、ふむ、日本語は美しい。
「些細なことじゃん、それぐらい」
「そんなわけねえだろ!」
 ありゃ? 新一としてはそう簡単に受け流せない問題らしい。なかなか熱の篭ったお叱りだった。
 不思議に思いつつ、一度あけた距離を縮めてみる。二倍に縮めても新一は気にもとめなかったので、調子にのって膝の上に手を添えてみた。どうでもよさそうにその部分を一瞥されて、かといって振り払われるわけでもない。お許しが出たようだった。
 新一の口はすらすらと動く。家にいながらここまでしゃべる姿はなかなか見れないので、快斗も素直に興じることにした。単純に会話というものが好きなのだ。それがしかも、自分のことについてなんて嬉しすぎるじゃないか。新一は知らなくても、快斗は知っている。その違いでこうも喜びが違うのだから人間というものは不思議である。
 俺の正体を知らないという、この現在は楽しい。知ってからだってきっと楽しいに違いない。喜びを見つけるのは得意だった。
「あいつが、灰原がそう言うってことは、俺の行動理念になにかしらこう……」
「思うところがあったってこと?」
「ああ。別にあいつの前でなんて、それこそなんにも言ってねえよ」
「独り言かも」
「ああ……」
 そこは思い当たる節があったらしい。新一は苦々しそうに顔を歪めた。確かに新一が思案しているとき、その考えが口から漏れていることは多々あることだった。もう珍しくもないと本人も認めているせいか、気に留めていなかったようだ。
 新一はこんなに分かりやすくていいのだろうか。分からせないことも、美徳のうちに入るだろうに。
 勿論快斗としては、分かりやすい新一も大好きだ。どんな新一も、快斗の興味を存分に引いてやまない。真実はいつも一つだと言うけれど、真実は複数あるほうが楽しい。新一も真実であればコナンも真実だというように、ありえないなんてことはありえないのだし。
「わからないなら、認めてみるのもアリかもしれないよ?」
「認めるって、何をだよ」
「キッドを好きだってこと」
「ありえねえだろ」
「ありえないって思ってるうちは、多分解決出来ないんじゃねえ?」
「随分とわかったようなことを言うな」
「まあまあ」
 なにせ新一が参ったという程のことだ、すぐには解決出来ないだろう。
 変にプライドの高い男なわけだから、哀ちゃんもとい灰原さんに理由を聞くなんてもっての他、自分を観察しに入るかもしれない。なるほど俺はここでこういう行動を、とかなんとか、そういうわけのわからない自己分析だ。
 新一が新一を観察するというのも大変面白いのだが、そうなると快斗が相手にされなくなる確率は今以上に跳ね上がる。それは流石にいただけない。
 黒羽快斗は先の先まで読みきって、そしてやっと落ち着ける性分だった。新一のことになれば尚更、”何も考えていないバカなやつ”と思われていたほうが動きやすいのもある。
 差は大きければ大きいほどいい。今のうちは。
 添えた手に少しだけ力を込めて、新一を見つめる。新一がツレないのはいつものことだと諦めて、一向にこちらを見ないその目を更に追いかけた。
「でも新一、気づいたら俺に報告してね。友達だし」
「気付きゃしねえよ……今日のお前はいつも以上にわけわかんねーぞ」
「え、わかりやすいじゃん。お友達だからお前の恋心は気になるんだよ」
「友達ねえ」
 ぴく、と上がった眉が凛々しくて格好良い。新一の姿形は快斗の美意識をとてつもなく刺激する。触るのも恐れ多いぐらいだが、それとこれとはまた別なのだ。
 友達という言葉に不満を持っているのは、俺があまりにも吊り合わないバカ……のように映っているからだろうか。実はそんなことなくて、IQなんて新一の二倍ぐらいあるんだよ、なんて言ってみたらきっと驚く。信じてくれないかも。
 演技力がありすぎるが故の悲劇ともいえよう。
 めげることなく見つめ続けていると、新一が途端真面目な顔をしてこちらを向いた。珍しく読めない表情で、それは真摯といってもいい。ひゃあ、と声を上げたくなるほど見事な造詣にあてられて快斗は思わず目を伏せそうになったが、なんとか耐える。これを逃したら次はいつ見れるかわからない表情なのだ。なんだか自分が不憫になってきた。
「俺はお前と友達になる気はねえよ」
 口の動きまで美しい。吐かれる言葉がなんにせよ。
作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily