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「乗せてもらっておいてなんだが、なんでここにいるんだ、お前」

色々言いたいことはあるがとりあえず素朴な疑問をぶつけてみる。
するとロシアはでかい図体のくせにちょこんと首を傾げてみせる。

「あれ?僕がいるから来てくれたんじゃないの?」

違うなら降ろすとか言うんじゃないだろうな。
でも会いに来たというのもあながち間違いではないのでどう答えたものか悩む。

「まあ会いに行くつもりだったけどここにいるのは予想外だったな」

「僕は最近ずっとこっちにいるんだけどな。知らなかった?」

ポーランドの野郎、わざと教えなかったな。
あのタルいしゃべり方と憎たらしい顔を思い出したが、話半分で出てきたのは自分だということも思い出したのでこの件は不問にすることにした。
何にせよロシアにも会えたしベルリンに入ることもできた。状況としては上々だ。

「そう言えば俺が国になるってポーランドから聞いたんだがお前何か知ってるか?」

知ってるも何もこいつが一番この件の当事者なんだろうけどな。と思いつつも一番聞きたかったことなので少し慎重に尋ねる。
するとロシアは一瞬こちらをじっと凝視したかと思うと、ふいと外を見る。

「あ。ついたよ。降りて」

…はぐらかされた。
しかし本当に見慣れた街の風景が車外に見える。
渋々車から降りると広がる景色は未だに瓦礫の山が街角に見られるものの、ここを去った日よりかはいくらか整理されていた。しかしどこか違和感がある。なんだろうか。今までいたポーランドとは何か、決定的なものが違う。
ふと道の向こうを見ると街路樹が倒れていた。
嵐もないのにどうしてだろうと見ていると車を降りたロシアが隣に立っていた。

「あれはね、電気止められちゃうし物資は入ってこなくなったからみんな薪を集めてるんだよ」

そう言って先に立って歩き出す。
電気を止めて物資を運ぶ道路や鉄道を封鎖したのはお前だろう、と言いかけたがなんとか思いとどまる。こいつはきっとそんなこと言われ慣れている。
しかし、そう言われれば街のどこにも灯りというものがついていない。感じた違和感とはこれだったのか。
ついて歩いていくと道の先々で生気のない目をした人々とすれちがう。
手には支給品を求めてだろうか空き缶を持つ人。しかし中にはなにも入っていない。
寒さと飢えそして死の影がこの街を、いや、この国を覆っている。
作品名:この歌を届けよう 作家名:ちはや