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憧憬に煌く 赤の 赤

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引きとめようとは思わなかった。
こいつがいなくとも、女の望みは叶えてやる事ができるから。
「・・・あの娘は、お前のなんだ」
「・・・娘?」
思いよらなかった言葉に逡巡したのがわかった。
けれどすぐに誰のことだかわかったのだろう。相変わらず視線は逸らされたまま、告げられる。
「うちの団体が主催する小学校の手伝いをしてくれてた子だよ。もうすぐ渡英して、うちのスポンサー企業の御曹司と挙式する」
それがどうした、と聞きたかったのだろうけれど。
確実に削られていく時間に急かされて、あいつは「彼女を頼む」と短く言い置いて、廃墟を後にした。
「・・・聞こえたか」
開け放たれたままのドアから視線を戻せば、女が微かに顎を引いた。
口元には、不釣合いの笑み。
「は・・・ぎり、かなめ・・・?」
あいつが何度か『刃霧』と口にしたのを聞いていたのだろう。
「昔はそういう名前だった」
女は音もなく笑った。
「ひつよう、の、よう?」
応えは頷き一つ。
「わた・・・にも、か・・・なめ、は、ひつ、よう・・・たよ」
喘ぐ様に吐き出されえる言葉はだんだんやせ細り、言葉としてのまとまりを欠いていった。
「あ・・・・・・・・・」
もうほとんど不明瞭な、ただの吐息。
それでも、聞こえた気がした一言は、ひどく自分には不釣合いのものだ。
淀んだ瞳から、涙が零れ落ちる。
無意識に、あいつが握っていた手をとった。
あいつの代わりをしてやろうと思ったわけじゃなく。
ただこの灼熱の国で、女の手はひどく冷たそうに見えたから。
そして実際ヒヤリとした手に、本当に最期を知る。
「・・・あ・・・、とぅ・・・」
繰り返された言葉。
ハッ、と短く息を吐き出して。
女は呼吸をやめた。
作品名:憧憬に煌く 赤の 赤 作家名:綴鈴