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憧憬に煌く 赤の 赤

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「ボクはいつだって、自分勝手なことばかりだ」
この国で使者が弔われる大河で、女は灰になろうとしていた。
女の財産では、多くの貧民がそうであるように、この川に打ち捨てられることしかできなかった。
この薪代は、あいつの私費だ。
女の家族にはすぐに連絡が取れたらしい。
冷たくなった女を見つめながら、こいつは淡々とこれからの手続きなどを、独り言のように口にし続けた。
あと一日待てば、女の両親はこの国に着くという。
けれど、こいつは待たなかった。
高く積み上げられた薪の上には、真っ白な布に包まれた女が横たわっている。
女の足元で、僧侶は経を上げるその後で、あいつと二人で、白い花を手に女が燃えるのを見つめている。
川に渡された橋の上から、西洋人の観光客がその様子にビデオをまわす。
何人かの現地人が声を荒げたが、数枚の紙幣でたいていは静かになる。
それがこの国の、この世界の現実だ。
「先生の国じゃ、白は花嫁の色だってね」
川の流れる寺院の外で待っていた褐色の肌の娘は、参列できなくてごめんなさい、と謝った後に、ホツリと言った。
「・・・イギリスでもそうだよ。君は真っ白のドレスを着て」
なんとか笑みを取り繕うとするが、こいつはいつだってうまくはできないでいた。
それは今も変わりなく。
引きつったような表情に、娘の顔は曇った。
「最後の服は身内が着せてあげるもの。・・・先生が着せてあげたの?」
答えのわかっている質問を、相変わらずの強い眼差しで娘はぶつけてくる。
「生きて白いドレスを着るのと、死んで最後の服を着せてもらうのと。私はどっちが幸せかわからない」
行き場のない憤りが、隠されることなくその瞳に浮かんでいる。
死者にたいする思いほど、不毛なものはないとこの娘自身承知しているだろうに。
あいつが絶句している間に、娘はオレを睨みつけてきた。
「せめてあと一週間待って出てきてくれたらよかったのに・・・!」
そう言い捨てて、娘は走り去った。
舗装もされていない不安定な道を、躓くことなく。
けれどその悲痛で身勝手な言葉に、一番打ちのめされたのは、その言葉の主だ。
「・・・身勝手なことしかできないんだ、ボクは」
搾り出すような声。
別に、心を動かされたわけじゃない。
「身勝手な人間以外、どこにいる」
十年前と同じ位置にある頭を、軽く小突く。
優しくされた、酷いことをされたというのは身勝手な行動がどちらに転んだか、ただそれだけの違いだ。
不安定な足元に転びそうになるあいつの腕を取ると、振り払われはしなかった。
いつかも、そうして歩いたことがあった。
欺瞞に満ちているこの世界で、嘘をつくのが極端に下手だった。
自らがそう思い込まなければ、ろくに歩くこともできない。
そんな不自由な生き方をこいつは変えずにきたという。
「だからいつも償う方法を考えて生きてきた」
血を流せばどうか。
自らを罰すればどうか。
死ねばどうか。
そういった混沌の仲で生きていたこいつなら、よく知っている。
だが、あの日。
市場を行くこいつの姿をみてそんなものは感じなかった。
眩しい世界で生きているのだと、あの女と二人で、そう思った。
「でも、それじゃ駄目なんだ」
歩くことも覚束ない。
手を離せば、すぐこの場に蹲ってしまうだろう。
けれど妙にはっきりした口調でこいつはそう言った。
「ちゃんと胸を張って生きないとだめなんだ。ちゃんと背負って、胸を張っていないと」
受け止めないと、と。言い聞かせるようにそう言った。
適当にこいつが属する団体の傍にでも放り出してくるつもりだったのが、気がつけばこいつの家にまでたどり着いてしまった。
会話は交わされることはない。
こいつの自問自答が時折繰り返されるだけ。
それに、オレが言葉を返すことはない。
ただ、聞いているだけだ。
いつもそうだ。
前もそうだった。
自分のペースでいるつもりが、気がついたらこいつのペースに飲まれてしまっている。
このままここで放置しても誰かが気づくとは思ったが。
そのまま放置して誰も気づかなかった過去を思い出して、溜息一つを身代わりに、諦めることにした。
これ以上の馬鹿を、オレは知らない。
知りたいとも思わない。
どうしようもない下種なら吐き捨てるほど見てきたというのに。
この馬鹿には、なぜ手を差し伸べてしまう?
作品名:憧憬に煌く 赤の 赤 作家名:綴鈴