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日々、徒然

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キングスベリーは相変わらず人々でにぎわっている。
戦中でも、そこにはどこか安逸な空気に満ちていた。
王都であるからそれは当然のことなのかもしれないが、ソフィーには好きになれない場所だった。
「人が多いわね」
まるで祭りでもあるかのように、沿道にまで打ち寄せている人の波に、ソフィーは呟いた。
王都にはほぼ関係なかったとはいえ、終戦という格好の題材があるのだ。
人々の空気はさらに軽いものになっているのは、理解できることだったけれど。
軽い溜息一つ吐いて、数週間前に受けた注文の商品をも一度抱えなおしてソフィーは人々の流れに乗るために、一歩を踏み出した。
数日前の注文主は珍しく男の人だった。
たいてい帽子を買いに来るのは女の人だったし、たまに男の人の姿を見つけても、付き添いだったりする。
ただでさえ目立つそのお客の注文がまた独特で、華美な飾りは必要ないけれど、上等な布、上等な小物、それとお客さんが持参したいくつかの宝石をちりばめるようにと言われた。
宝石を渡されたときに、一度ソフィーはその注文を断ったのだ。
そんな高価なものを扱う店ではなかったし、その宝石につりあう布地があったかも心配だった。
それに、デザインについては一任する、というもので。
自分には荷が勝ちすぎると思ったから。
けれど、そのお客は「あなたの思う通りに作ってください。この宝石は使ってもいいし、使わなくてもかまわない。あなたのしたいようにしてください」というとソフィーの返事も聞かずに多すぎる代金を置いて出て行ってしまった。
名前も連絡先も聞いていないことに気づいた時にはその人の姿は雑踏にまぎれてしまっていた。
そうして、数日前。
帽子の完成を知っていたかのように受け取り場所を記した手紙が送られてきた。
手紙には連絡先を知らせなかった非礼を詫び、仕事の関係で王都に来ているので、指定された日に受け取れなかったら、次に王都にくる機会は数ヶ月先になることとが記されていて、けれど、未完成であるのなら次の機会でもかまわない事が書かれていた。
ソフィーだって、そのちょっとあやしい手紙に従うことについて、悩んだりした。
けれど、実際に取引をした相手でなければ知らないような事細かなことまで書いてあったので、結局ソフィーは出来上がった帽子を丁寧に包装し、約束の場所に赴くことにしたのだ。
待ち合わせの場所は大きな公園のカフェテラス。
通りでこんなに人が溢れているのだからと、カフェにも溢れるような人を覚悟して出かけたソフィーだったけれど、一歩立ち入った公園は驚くほど人が少なかった。
そのことに少しホッとしながら、ソフィーは指定されたカフェに向かった。
人ごみの中を通ってきたからだろうか。
いつも以上に公園が広く感じて、心持、足取りがゆっくりとしたものになる。
「いいきもち・・・。キングスベリーでも、小鳥が歌ってたのね」
人ごみの中では足元ばかりを気にして、人の浪から遅れないように急いで歩いていたけれど、ぶつかる心配のない公園で、ソフィーは空を見上げてゆっくりと歩を進めた。
「わざわざお呼びたてしてすみません」
「え?」
不意にかけられた声に、ソフィーは小さく声を上げた。
いきなりかけられた声にも驚いたけれど。
その声が知っているものだったから。
「カブ?どうしてここに?」
 振り返れば、いつものようにピシっとしたスーツを着こなした隣国の王子・・・通称「カブ」が、柔らかい笑みを浮かべてそこにたっていた。
「勿論、貴女に逢いに」
落ち着いた声音でそう言われ、ソフィーも微笑んだ。
「私も会いたかったわ」
何の含みも感じられないその言葉にほんの少し落胆したけれど、そんなものを感じさせない完璧なエスコートで、カブはソフィーを促した。
そこはソフィーがお客と待ち合わせをしていたカフェテラスで、カブを見上げれば、まるで悪戯に成功した子どものように嬉しそうに微笑んでいた。
王族という人たちを、ソフィーは知らないけれど。
ほんの少し前、目にした彼らは偉そうで、こちらの気持ちなど関係ないという・・・はなから、こちらに気持ちなどないという風な態度をとっていた。
だから、その「王族」らしからぬカブの態度にほんの少し驚いて。
それから、そんなカブにソフィーは親しみを感じた。
戦争をまるでゲームの話をするように興奮していた王様。
戦争を他愛もないことのように話していた女性。
彼らとカブは違うのだ。
「カブが本当のお客さんだったの?じゃぁ帽子はお母様へのプレゼント?だったら選んだ色が若すぎたかしら・・・」
カブがさり気なく引いた椅子に誘われ、素直に腰掛けながらソフィーはたずねた。
それにただ微笑を返して、カブはソフィーの向かいに腰を下ろす。
ソフィーはつぶれないように箱に入れていた帽子を取り出し、カブに差し出した。
渡された宝石と、華美にはなるなという注文から、ボンネットは小さめに作ってある。
けれど宝石を花のつぼみに見立て、細かな細工のレースでブーケを作り、サイドに設えたデザインをソフィーは気に入っていた。
イメージしたのは、ハウルがプレゼントだといってくれたあの花畑。
両手でそっとソフィーの帽子を受け取ったカブは、ゆっくりとその帽子を確認する。
女性の帽子になど、カブは興味はなかったけれど。
それでも外出時には妹たちの小さな頭には贅を尽くしたといえるような帽子が乗っかっていた。
女性のお洒落については、興味がなくても褒めなければ礼に反する世界で生きてきたから、知識だけはあった。
そしてカブの立場上、目にするものは一級品ばかり。
けれど、そういうもので目が肥えていたけれど。
ソフィーの帽子は、すばらしいと思えるものだった。
贔屓目があることも、認めなければならないだろうけれど。
「ありがとう。素晴らしいです」
カブの検分を息を潜めるように見守っていたソフィーはホッと息を吐き出した。
目に見えて肩から力が抜けるのを目にして、カブは小さく笑う。
その時を見計らっていたかのようにギャルソンがやってきて、カブとソフィーの前にカフェ・オレを置いて、綺麗な角度で礼をして去っていった。
それを無言で見送って。
「・・・そういえば、こうして貴女と二人きりになるのは、あの雨の日以来ですね」
ギャルソンが立ち去るのを待ってカブはゆっくりと口を開いた。
カブとソフィーが二人きりにならないように、常に目を光らせている男がいるから。
けれど、今日はその姿はない。
ソフィーは知らないだろうが、今頃彼は王宮に居る。
だから、邪魔されることはない。
「そういえばそうね。いつもあの家には誰かいて、とってもにぎやかだから」
カブの言葉を勘違いして、ソフィーはクスクスと笑う。
彼女はカブが生きてきた世界のように、言葉の裏を探るようなことはしない。
その代わり、真っ直ぐな言葉をくれる。
それは一見幼いようでいて。
けれど、強さがあることを知っている。
「・・・あの時、どうして泣いていたのかを・・・聞いてもいいですか」
ふわりとくゆる湯気を見るともなしに見ながら、カブは聞いた。
それは、ずっと不思議に思ってきたことだから。
なにがあったら、人はあんなふうに泣くのだろう。
幼い子どものように、声を上げて。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴