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日々、徒然

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「・・・ご招待をお受けしますと返事を返したと思うんですが」
数十分前に聞いた台詞を再び聞きながら、サリマンはにっこりと微笑んだ。
「ええ、伺ったわ。だからこうして招待したのよ」
ソフィーはその言葉に、口をつぐんだ。確かに招待状には時間の指定はしていなかった。
けれどこういうものは、と口を開きかけて。
けれど、そういった理屈の通らない人であることはわかっていたから、再度ソフィーは口を噤む。
「あら。なにか言いたそうな顔をしているわね」
ソフィーの心なんかお見通しのはずなのに、そう聞いてくる意地の悪さ。
「ええ。いいたいことはたくさんあります。ですが、それを聞き入れてもらえないってわかっているから、私は黙るんです」
はっきりとした物言いに、サリマンは笑みを深くする。
「貴女勇気があるのね。私にそんな口の聞き方をする人はいないのよ」
「そうでしょうね。きっとみんなあなたが恐いんだと思います」
真っ直ぐにサリマンの目を見据えながらのソフィーの言葉にサリマンは軽く身を乗り出して聞いてきた。
「なら貴女は私が恐くないの」
「恐いです。でもあなたはハウルの先生なのに、ハウルを殺そうとしたわ。だから、貴女を恐いと思う以上に、わたしはあなたに対して腹を立てているんです」
「あら、こわい」
まったくそう思っていないだろうことなんてすぐにわかる。
そんなサリマンの物言いを気にすることなく、ソフィーは真っ直ぐにサリマンを見つめ続けた。
「貴女、本当に勇敢なのね。ハウルは本当に臆病だから、貴女時々我慢できなくなるんじゃない」
サリマンの言葉になにか裏の意味があるのではないかと、ソフィーはそれを探ろうとしたけれど、この狡猾な・・・思惑にも経験にもとうていサリマンには敵わないことを思い出し、ソフィーはただサリマンの言葉のみに返事を返すことにした。
「・・・確かにハウルは臆病な人だけれど、逃げる勇気は持っていました」
「逃げ出すことなんて、誰にでもできることでしょう。そんなもの、勇気とは言わないわ」
サリマンは椅子の脇に置かれた小さな机の上からグラスを取り上げて、一口何かを口に含んで嚥下した。
じっとその様子を見守っていたソフィーはサリマンがグラスを元に戻すのを待って、幾分ゆっくりと口を開く。
その姿が誰かに似ていて。
ソフィーは記憶を探った。
そうして思い至った記憶に謎が解けたような気がして、ソフィーは一つ息を吐く。
それがサリマンには溜息に見えたかもしれない。
けれど、ソフィーの気のせいでなければ、サリマンはソフィーたちになにかしてこようとは思っていないはずだ。
だから、先ほどよりずっと気持ちが楽になった。
「選ぶことは勇気です。ハウルは逃げることを選んだわ。わたしはなにも選べなかった。考えることはあっても、行動には移せなかった。でも・・・でも、これからは私も自由になるの。逃げることを選べるくらい、自由になるわ」
「自由?いい言葉に騙されてしまいそうね」
フフフと笑ったサリマンに、ソフィーはやはり近所の奥さんたちとの会話を思い出した。
彼女たちが家族の話をするときのその姿に、今のサリマンは良く似ていたのだ。
流れる空気というのか。
眼差しというのか。
そういうものが良く似ていた。
「自由はいいものです」
きっぱりと胸を張って答えたソフィーにサリマンは可笑しそうに笑う。
「あなた、本当に頑固ね」
思いもかけないサリマンの言葉だったけれど、スルリとソフィーからは言葉が漏れた。
一度、近所の奥さんの軽口のようだと思うと変な気負いも緊張もなくなってしまったのだ。
「張らないといけない意地は張り続けます」
それに呼応するようにサリマンもスルスルと言葉をつむぐ。
「私の若いころに似ていると言ったら、怒るかしら」
「でも、年を取ったわたしは貴女には似ていなかったわ」
「人の姿はいくらでも変わるわ。人の心もね。いつかハウルに飽きたらあなた王宮にいらっしゃい」
「王宮よりも外の世界のほうがずっと自由ですもの。私は自由でいつづけたいもの」
心が変わることなんて、ソフィーは経験済みだ。
それを心変わりと言うのなら、それでもいいと思う。
心変わりをした新しい自分をソフィーは気に入っていたから。
「でも、心は変わらなくてもたびたび王宮にはお邪魔します」
そういうと、サリマンは益々嬉しそうな顔をした。
ただ、少しも驚いたふうでないことが、ソフィーはすこし残念で悔しかった。
「それにこんな風に無理矢理連れてきていただかなくても、自分の足で歩けます。わたしがおばあちゃんの時には自分の足であの長い階段を登らせたのに、若いときには迎えがあるなんて、おかしいもの」
けれど一気にそう言うと、ソフィーはサリマンのもとに来て、初めて微笑んだ。
近所の奥さんたちと気軽に話をする、そんな風に微笑んだ。
「・・・本当に、頑固者ね」
そう言いながら、サリマンはグラス脇においてあった呼び鈴を鳴らし、従者を呼び寄せる。
「お帰りになるわ。案内してあげて」
サリマンからの急の開放に、ソフィーは数回瞬きをした。
聞き違いか、それとも別の意図があるのかわからなかったから。
けれど、その間に綺麗に切りそろえられた金髪の少年が入り口の脇へと進み、そこでソフィーを待っている。
それで、本当に帰ってもいいということに気づき、ソフィーはサリマンに向き直った。
「実はね、さっきちょっとハウルを苛めてしまったの」
とても可愛らしい言い方だったけれど、ソフィーはすぐにハウルに同情した。
サリマンが苛めたと自覚しているのだ。一体ハウルはなにをされたのだろう。
そう思うと心配だったけれど。
目の前のサリマンは以前ほど無茶はしていないのではないかと直感で思って。
「失礼します」
でも、なんの確証もなかったから。
一つお辞儀をして、ソフィーは足早に出口へと向かった。
その姿までも、弟子に似ていて。サリマンはグラスを持ち上げて、再度口を潤した。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴