二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

日々、徒然

INDEX|9ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

「君は最初からそうだったね。僕の言うことなんか一つも聞きやしないんだ」
家に帰ったとたんふてくされたハウルがそんなことを言ってきた。
ハウルの不機嫌がサリマンとの邂逅にあるのだと思ったソフィーは「急なことだったんだもの」と被っていた帽子を脱いだ。
子どものようにふてくされていたハウルだったけれど、その帽子を確認したとたん眉間にはくっきりと皺が刻まれ、それからじっと帽子を凝視してきた。
ハウルの視線が帽子に縫い付けられていることに気づいたソフィーは、やっぱり似合わなかったのだろうかとサイドのブーケをそっと指を馳せる。
ハウルのくれた、花畑をイメージしていたのだけれど。
もちろん、ハウルはソフィーとは違う思惑で帽子を見つめていた。
ソフィーの帽子にハウルは見覚えがあったから。
最近受けた注文だということも知っていた。
それをソフィーが被っている。
そしてハウルは知っていた。
今日、ソフィーがサリマンに会うまでに誰と会っていたかを。
急いで家に帰ろうと空を駆けていたとき、普段とは違う光景が眼下に広がっていて。
人に溢れかえる道。
それとは裏腹に、ほぼ人影が見えない公園。
いやでも目に入る。
ソフィーの姿なら、すぐに見つけられる。
いやでも、目に入ってしまったのだ。
そうして、帰って来たソフィーが機嫌よくその帽子を被っているのを見てしまったら、次から次へと不満が溢れてきてしまった。
「その帽子はどうしたの」
一番最初に口にしたのはそんなこと。
きっと聞きたかが悪かった。ゆっくりと尋ねれば、話はきっと簡単にかみ合ったのに。
「これ、わたしが作ったものよ」
でも聞き方が悪かったから、ソフィーはそう答えた。
「そんなことは知っているよ。君がどこかの貴族から請けた仕事だって話してくれただろう。でも、どうしてその帽子を君が被っているんだ」
わざと「どこかの貴族」の部分を強調して言ったハウルに気づかずに、ソフィーはどこから説明したものかと、言葉につまってしまった。
その間が、心に余裕のないハウルには悪いものに思えてしまって。イライラと、ハウルにしては珍しく頭を掻いた。
グチャグチャと頭の中では言葉が駆け巡るのに、口は一つしかないから、一気に出口を求める言葉たちは互いを邪魔して、上手く外に出ることはできない。
そんな普段ならぬハウルの態度にソフィーは手にしていた帽子をジッと眺め、深いため息を吐いた。
「やっぱり、わたしには似合わないわね」
そんなソフィーの言葉にハウルは慌てて被りを振る。
「違うよ!ソフィーに良く似合ってる、よく似合ってるよ。ブルーの布地は空みたいだし、レースも宝石も、まるで星みたいに綺麗で、ソフィーに良く似合ってるよ!!」
怒鳴りつけるように一気にそう言って、ハウルは一つ大きく息を吸い込んだ。
「だけど僕はその帽子の贈り主が気に入らない。その帽子以上の贈り物も思いつかないし、なんたって、その帽子の作り手以上の作り手も僕は知らないしね・・・!」
聞いたことのないようなハウルの大きな声にマルクルはソフィーとハウルを交互に見交わした。
こういう場合、誰よりも頼りになるのはソフィーだと経験的に知っている。
けれど、ソフィーは帽子を手に動こうとはしなかった。
なにもしないというより、どうしたらいいのかわからないようで。
だからマルクルもカルシファーとともに息を潜めて成り行きを見つめることにした。
とりあえず、ソフィーが居れば安心だということを、マルクルは知っていたから。
でもソフィーはハウルの言葉を聞いているけれど、きっとハウルの不機嫌の理由をわかっていない。
帽子を褒められているのに、被っていることに不満を言われているのだ。
きっと言っているハウルだってなにを言っているのかわかっていない。
支離滅裂な言葉の羅列を誰よりもわかっている。だからこそ、焦っているのだ。
そんな様子を暖炉の中からそっと見守っているカルシファーにしてみれば、ハウルの恋心なんてわかりすぎていて。それと同じくらい、ハウルのことを想っているソフィーのことも知っている。だから、なぜこんな展開になるのかわからない。
理由はハウルのソフィーへの想いだってことがわからない。
だってハウルにしてみれば、あの隣国の王子は時々とても気の利いたことをするように思えてならないのだ。なんだか颯爽としているような気もするし、かっこいい男なのかもしれないと思うことだってある。
もしカブがハウルにとってまったく利害関係のない人物であったなら、素直にその人柄の良さを認められただろう。
けれど、だめなのだ。
ソフィーがあの王子に友情以上のものを抱いていないこともわかっているはずなのに。
一度堰を切ってしまうと、止める事が難しい。
いつか、ソフィーの前で癇癪を起こした時だって、ハウルには途中から記憶がない。
「いつだってそうさ!僕は魔法が使えるけどそんなことたいしたことじゃない。君になに一つ、僕の言うことを聞いてもらえないんだからね!」
同じようなことを何度目かに口走ったとき、ソフィーは一つ大きく息を吸うとわかったわ、と脱いだ帽子を再度被りなおして言った。
「わたしのやり方が気に入らないなら出て行くわ。わたしは自由な掃除婦だもの」
淡々としたソフィーの言葉にハウルは言葉より先に居間を横切って例のドアノブを思いきりまわし、ピンク色に合わせてドアを開いた。
乱暴に開かれたドアの向こうは悠久の美園。
花の芳香をのせた爽やかな風が、微妙にかみ合っていない空間に舞い込んできた。
「そんなこと、君にさせられるわけがないだろう!僕が出て行くよ。みんなその方がいいだろうからね。ああ、でもご心配なく。2~3日で帰ってくるさ、ほとぼりが冷めればね!」
ハウルの言葉に「覚めるのは頭だろ」とカルシファーが静かなツッコミをいれた。
けれど、そんなものには耳を貸さずに・・・いや、聞こえていないのだろう。
ハウルは荒々しくドアを閉めて、花畑へと消えた。
「・・・ハウルさん・・・」
マルクルが恐る恐るソフィーに向かって口を開いたとたん、しまったばかりのドアが勢いよく開く。
その先は相変わらずの花畑で。
ドアを開いたのは当たり前だけれど、ハウルだった。
怒っているのか、拗ねているのか、気まずいのか。
微妙な表情で、ソフィーと硬い声で呼ぶ。
「っ、一つ言っておくよ。変な輩が来てもドアを開けちゃいけないよ。今日はもう店を閉めてしまった方がいい。それと、夜の戸締りはちゃんとすること。僕が出て行ったあとにはもう鍵をかけたらいい。僕は鍵ぐらいあけることができるからね。それから・・・」
「オイラがいるから大丈夫だよ」
とめどなく続けられそうだったハウルの台詞をぶつり、とカルシファーがちょん切った。
そんなカルシファーにハウルは「裏切り者」と小さく漏らしす。
カルシファーの元には届いたけれど、ソフィーとマルクルの元には届かなかったようで、二人は続くハウルの行動に視線を注いでいる。
ハウルは気を取り直したように顔を上げると、ソフィーに向かって口を開いた。
「それからカブは絶対にいれないこと。いいね?」
そう言うと再びハウルは扉の向こうの花畑に消えた。
作品名:日々、徒然 作家名:綴鈴