縹色
目を開いている、と気付くまで三秒。そこから、寝汗をかいてべとついた背中をベッドから引き剥がすのにまた十秒。夢の割にはずいぶん現実味のあるというか、夢特有の非現実的な世界でもなく、心躍るファンタジーでもなく、ずいぶんと陰鬱で面白みのない夢だったなあ、と、溜息を吐く。部屋の中にいるというのに、それはぽうっと白く形を残した。途端、濡れた背中に寒気を感じて身震いする。床に足を下ろして、スリッパに指先から足を通す。わずかに光っている窓へ足を向け、カーテンを開いた。ずっとずっと奥の方の空にオレンジ色が顔を出して、伸びた光が一度白を経てから紫色に表情を変えていた。遠いところにあるはずの光なのに、やけに目に刺さって痛かった。淡い色合いは、靄だか霧だかのおかげでぼやけて、なんだか頼りなげにも見えた。オレンジは溶けて綺麗に、紫は霞んで優しく、そして白はにじんで、いえばさっき吐いた溜め息みたいだった。
さっきの夢では夕方の五時だったけれど、いまは明け方の五時なのかもしれない。ちょうど半日前くらいから灯っただろう街灯がまだぼんやりと息づいていた。もう少ししたら勤めを終えて、また半日ほどの眠りにつくのだろう。どれにしたってしっかりとした輪郭を持っていないものに溢れた風景に、さっき持ち上げたばかりの瞼がまた重くなる。
見ていた夢は、夢と呼ぶにも違和感を覚えるほどに現実味を帯びていた。
もしかしたら、いまが夢でさっきが現実なのかもしれない。あのあと転んで頭でもぶつけて、気絶なんかをしていたりして。
あるいは今が現実でさっきが夢というなら、いつから夢に入っていたのだろう。
悪夢だとしても、夢と呼ぶに相応しいくらい現実離れした展開なら、それならあの雨の日さえ、瞼の裏にだけ上映された映画だと思いたかった。あれも全部夢だったら、悪夢だけれど、最後まで陰鬱としていたけれど、ただの悪夢ならきっと、許せるのに。
カーテンを閉める。
最後の溜息で、曇った窓ガラスを隠す。朝にしろ夕方にしろ、五時は起きるのに適した時間じゃないはずだ。
「…なんだ。起きてたのかい?」