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ジュネスのおにいさま。

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別に怒ろうってわけじゃあない。君は頭が良さそうだし、ただ遊ぶお金が欲しいってだけでこんなことはしないだろ?』

その眼差しに促されて、眞澄は無意識の内に口を開いていた。
両親が不仲で、叔父の家に預けられたこと。叔父は帰りが遅く、叔母は従妹に掛かり切りであること。彼らのことは嫌いではないが居場所がなく、この春休み特にそれを感じていること。それから、両親から送られてくる生活費に教科書代が含まれていなかったこと。
叔父夫婦に教科書代まで世話になるのはと思い、ならばこの無為な時間を売って金を稼ぐのが良いだろうと考え、応募したことを明かすと陽介は頭を掻いて、
『あー……聞かなきゃ良かったな……』
と呟いた。眉根を寄せて、さっきの倍唸って、
『聞いたら助けたくなっちゃうじゃん』
と困ったように笑った陽介を見て、改めて、ここで働きたいと思ったのは今でも自分だけの秘密だ。

『もう一度、履歴書書き直して来な。年齢と学校は嘘偽りなしで、志望理由だけ家の事情とかそういうことにしてくれ。後は、俺が掛け合ってみるから』

かくして眞澄は、最高でも五時間まで、夜は二十時まで、給与は高校生の五十円マイナス、という諸々の制約付きではあるものの特別に働くことを許され、密かにジュネス八十稲羽店の従業員として放課後を過ごしている。
しかしワケありとはいえ、中学生を雇っていると公に知れるのはまずいので今のように陽介の手を借りたり、時には叔母と鉢合わせしそうになってやっぱり陽介の機転で逃れたりと、雇われてからも彼には世話を掛けっぱなしだ。それでも、陽介は自分を常に気に掛けてくれるから、自惚れてしまいそうになる。
優しいだけだ、と言い聞かせても口元が綻ぶのを抑えられない。着替えた私服の上からエプロンを被り、鏡を見ればいつになく幸せそうな自分がいた。
「……バカだな」
会えるだけで嬉しいだなんて、これはもう恋としか言いようがない。
ロッカーに押し込んだ鞄を一瞥して、フロアへと出て行く。不毛な恋でも、走り出したら止まらないのは矢張り自分が若いからなのだろうか。