【腐デュラララ】にょた百合詰め合わせ【帝人受】
竜ヶ峰帝人は鞄の紐を握りしめながら、おろおろと視線を彷徨わせて欲が裏に見え隠れする笑みを見せ続ける男たちを見上げた。
「あの、私、友達を待ってて、それで あのう・・・」
「えー、じゃあ君の友達も含めてさ。いいじゃん、カラオケ」
「カラオケ嫌なら別にふつーにお茶でもいいじゃんねー」
けたけたと笑いながら帝人を取り囲む男たちは、気弱そうで内向的な帝人の様子に目ざとく気付いた様子で、高圧的と一見しただけでは見せない態度でにこにこと笑い続けながら首を傾げる。帝人はおろおろとますます縮こまり、目じりに涙を浮かばせながら何事か呟いた。鞄の紐を強く握り過ぎて彼女の指の先が白っぽく染まる。男たちはそれを見つめてげらげらと品の無い笑いを浮かべた。と、その時 男たちの中にいたリーダー格の少年が、首を絞められた鳥のように鈍い声を上げて悶絶し始める。少年が苦しそうに抑えている個所を見つめ、他の少年たちは一挙に顔をしかめて後ろを振り返った。脱色している髪に、帝人と同じ制服の下に白のパーカーを着こんでいる少女は、無言のまま男たちを擦りぬけ、帝人に晴れやかな笑みを見せる。
「みー、お待たせー。みーはストロベリーで良かったよね?」
「ま、まさちゃ、まさちゃ・・・っ!」
めそめそと泣き出しかけながら、帝人はアイスを差し出す幼馴染の服を握っておろおろと視線を伏せた。まさちゃ、と呼ばれた紀田正実は、帝人を安心させるかのようにアイスを二つとも彼女に預け、よしよし、と帝人の頬をなぞる。少年たちは彼女がリーダー格の少年の股間に容赦なく蹴りを喰らわせたのだと気付き、若干青ざめながらも口々に汚い言葉を上げていく。帝人が怯えてかたかたと震えるのをみてとった正実は、醒めた視線を少年たちに向けた。
「ナンパもいいけどさー、ターゲット怯えさせるなんて女の扱い心得てないにも程があるっつーか・・・そもそも、みーに目をつけんなって話なんすけど?」
みー以外の女に声かけたら見る目ないけどさぁ。正実の一種筋が通っていない発言に、男たちは苦々しげに眉を潜めたまま小型のナイフを取り出した。声のない悲鳴をあげた帝人に、正実は振り返り、ふ、と笑ってみせる。
「みー、アイス垂れてんよ」
場違いなほどのんきな言葉に、帝人は虚をつかれて目を丸めた。少年たちが正実に向かい、ナイフを振りあげる。正実は少年に向き直った後、息をついて身をかがめナイフから身体を護ったとどうじに、しなやかな脚を加速づけて振りあげ、少年のわき腹を思い切り蹴った。体勢を崩した少年をそのまま踏み台のようにもう一度蹴り、くるりと一回転した後に逆足を用いて別の少年の顎を蹴りあげた正実は、立っている唯一の少年に狙いを定め、たん と身軽にジャンプした。少年は ひ と悲鳴を上げる瞬間で、正実によって踵落としを喰らう。ふらつく少年たちを見つめながら、正実はとんとんとコンクリートを蹴って みー と帝人を呼ぶ。
「よし、逃げよう!」
「えええええ! まさちゃ、そんな、えええええ!」
正実はアイスをもったままの帝人の片手をとり、脱兎のごとく駆けだす。少年たちは正実を追いかけようとするが、その前に騒ぎを聞きつけた警官と、周りで呆然と事態を窺っていた通行人の証言によって取り押さえられてしまった。
「アイス溶けちゃったなー。残念!」
「まさちゃがいきなり暴れるからだよ・・・!」
どろどろのアイスを舌で拭いながら、正実はぱちりと瞬きをして帝人をじっと見つめる。頬が少し赤い帝人は、もぐもぐとアイスを食べながら正実の視線に身じろぎをした。
「なあに?」
「みーがあたしに魅惚れながらもつっけんどんな言葉を呟いちゃうのがたまらなくキュートだなーって」
さくり、コーンを噛み砕きながらおかしげに呟く正実へ、帝人は違うもん、とふるふる首をふった。
「まさちゃが突然走らせるからだもん。見惚れてなんかないもん」
「んんー?そーかなぁ。みーが言うならそうなのかなぁー?」
もぐもぐ、帝人はアイスを食べているにも関わらず段々と赤みが増している頬には敢えて触れず、正実から視線を離した。正実はからかいすぎたか、と反省しながら苦笑し、帝人に呼びかけようとしながらも、彼女がコーンから指を離して正実の服を握ったのを見つめ目を丸めた。
「見惚れてなんかないけど、・・・ありがとう・・・。でも、ナイフなんて危ないんだから。まさちゃ、怪我しちゃうかもって思ったんだよ?」
うれしかったけど。帝人の歯切れ悪い言葉に、正実は一瞬黙りこみ、ふとくすくす笑い うん と声を上げた。ごめんね、正実の軽やかな謝罪に、帝人はぶすりと頬を膨らませながら あのね と声を続けた。
「・・・かっこ良かったよ、まさちゃ」
帝人がぽつりと呟いた声に、幼馴染がふるふると震えながら抱きついてアイスを落とすのは、これから三秒ほどあとのことである。
作品名:【腐デュラララ】にょた百合詰め合わせ【帝人受】 作家名:宮崎千尋