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小柴小太郎
小柴小太郎
novelistID. 15650
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縁の糸

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 封じられているのは、今現在ライドウが仲魔にしている唯一の悪魔、ウコバクである。召喚呪を呟いて腕を一閃すると、刑事の背後にウコバクが出現した。発火を命じると、ウコバクはひょこひょこと踊るような足取りで拍子を取り、うりゃ、とでもいいそうな仕草で燃える石炭を乗せたスコップを突き出した。そこから飛び出した炎が俯いてなにやらぶつぶつ言っている刑事の背中に吸いこまれる。
 うおおおお、と刑事が雄叫びをあげた。
「あのもじゃもじゃ野郎、オカルト専門の探偵だなんてほざきやがって怪しいにも程があるぜ! こないだも容疑者をいい女だってだけでウチの依頼人だから連れてかれると困るんだよねぇなんて気障くさく笑って横からかっさらって行きやがって! 真犯人は別にいたからいいようなものの、いやよかぁねえだろあれは立派な職務妨害だ犯罪だなのに女の義姉ってのがいきなりしゃしゃり出て来て自分の父親と軍の高官との繋がりをいやらしくちらつかせやがったもんだからうちの部長がびびりあがって鳴海の野郎を放っておけなんて意気地のねぇ命令をくだしたんだあのタマなしめ! どうせあのもじゃ男が元容疑者の女だけじゃなくその旦那の姉貴まで誑しこんだに違いねぇんだ! もじゃのくせしやがって別嬪と見ると手が早ぇのなんのって、ちっとばかし背が高くて甘ったるい面と声してていい服きてるだけじゃねぇかよ! 中身は助平でいい加減で金にもだらしなくてあちこちにツケ溜めまくりの貧乏探偵だっつうのによ! あいついつ見ても同じ服じゃねぇかよ特注で仕立てたとかいう馬鹿高ぇ三つ揃えなんか着やがって羨ましい身分だぜこんちくしょう、じゃなくてだな、分不相応な値段の服なんか作りやがるから他に着るもんなくて毎日同じの着てるんだろうがばっちい奴め! あいつが事務所にいねぇ時は大方服を洗濯屋に出しちまっててサルマタいっちょでてめえの部屋に隠れてるのに決まってらあな! 人様にゃあ見せられねぇそのざまを暴いてやったら二度とお天道様の下を洒落者ぶった面で歩けなくなるだろうによ! そのうちこの風間さまがあのもじゃ野郎の尻尾捕まえてブタ箱にぶちこんでクサい飯たらふく食わせてクサい屁ぇこかしてやるぜぇぇええ!」
「………」
「………なんだかな。面白くはあるんだが、妙に物悲しいものも感じるな」
 溜息をつくゴウトの言葉に、ウコバクのうけけけという笑い声が重なった。こちらは大うけして笑いながらぴょこぴょこ踊っている。ライドウは慎ましく沈黙を守った。
 発火の影響が切れると、刑事(風間という名らしい)は息切れしながら『ふいー、俺としたことがつい熱くなっちまったぜ』と独り言ちた。喚くだけ喚いて毒気も吐ききったおかげか、ライドウに対する態度がだいぶましなものになり、
「いやぁ、おまえさんも気の毒にな。その荷物と手紙から察するところ、鳴海探偵社に雇われた書生だろ? で、今日から住みこみかい? そうだろそうだろ。どういういきさつで鳴海の助手になったんだか知らんが、給料は出ないもんだと思ってたほうがいいぞ。逆に金を貸してくれとせびられるかもしれねぇしな」
 と、人の好いおじさん風に同情とも忠告ともつかない言葉を寄越した。
 怪しげな店の前で突っ立っている書生を怪しんで威圧的に所持品検査をしたら、全くの無実だった上に商売敵(と風間は見做しているようだ)のところに助手として雇われて筑土町に来たばかりの少年だった、ということで、気まずさもばつの悪さもあったのだろう。男は遅れ馳せながら自分の名を名乗り、鞄を返しながらすまなかったねと謝ってきた。
 ライドウとしてはいいえとしか返事のしようがないが、それが素っ気ない印象を与えたのか、風間刑事はあーとかえーとか唸った後で、おまえさん、名前は? と訊いて来た。
「あーととと、いやいや、別に、これは職質の続きってわけじゃあないんだがね。鳴海とはこっちも一応面識はあるから、あいつんとこに入る助手だってんならまた会うこともあるだろうと思ってね」
「……葛葉ライドウです」
「おお、いい名前だねえ。で、どういう字を書くんだい? 葛葉はわかるが、下の名前」
「カタカナです」
「お…覚えやすくていいねえ、はははは! うん、いい名だよ。葛葉ライドウ。男前な響きだうんうん」
 ありがとうございます、とライドウが礼を言うと、風間は曲がってもいないハンチング帽をしきりと気にして被り直し、それじゃあおじさんは忙しいからもう行かないととかなんとかもぐもぐ言って、足早に立ち去って行った。
 ゴウトが鼻筋に皺を寄せて唸った。
「口先だけで褒めちぎられても貶されてるようにしか聞こえないぜ。どうせ、怪しい探偵のところに来た助手だってことで、おまえのことも要注意人物名簿にでも書きこむつもりで訊いたんだろうしな。ちっ、白々しい」
「その名簿に名が載るのは、やはり、不名誉なことだろうか」
「いや、ある意味名誉なことだろうよ。警察には解決できない事件を解決するからこそ、商売敵だと憎まれて載るのならな」
「なるほど」
 では、自分は鳴海氏の助手だからという理由だけではなく、あの助手侮れん、と一目置かれる意味でも風間刑事に名を覚えられるようにならなければ、要注意人物名簿とやらに載せられた葛葉ライドウの名の誉れを守れないわけだ、と生真面目な十四代目は大真面目に胆に銘じたのだった。






 ウコバクを管に戻し、掻き回された鞄の中身を整え直していると、ちょいとお兄ちゃん、と心配そうな顔をした年配の女性が、ある一定の年代以上になると非常によく似合うようになる特殊な仕草でちょいちょいと手を振ってライドウを呼んだ。
 何かと思って近づくと、声をひそめて、
「今の、刑事さんだろ? お兄ちゃん、一体何を疑われたんだい? もじゃもじゃがどうとか、助平だの誑しだのってのも聞こえたけど、女の子に悪さでもしたと誤解されたんじゃないのかい?」
 と捲し立てられたので、ライドウは瞠目して絶句した。
 が、傍目には少しばかり目を瞠って軽く驚いたようにしか見えなかったようで、老女は同情に満ち満ちた顔でしみじみと頷いた。
「あんたくらい綺麗な顔した男の子なら、黙って立ってるだけでも女の子がわさわさ寄ってくるだろうからねえ。モテない中年男からすりゃあ小憎らしくて仕方がないのさ、ちょっとくらいの八つ当たりは笑って許しておやり!」
「………いえ、最近、この辺りで随分と大胆な手口の窃盗が頻発しているとかで」
「おやま! あんたをその犯人じゃないかと疑ったのかい! いやだよ目が節穴にも程があるよあの刑事さんたら!」
 ライドウは、風間に声を掛けられた時よりも更に返答に困った。
「やれやれ。年をくった女というものはだな、理論も論理も超越している特殊な思考能力と恐るべき情報伝達能力を備えた、ある意味悪魔より厄介な生き物だ。逆らわず、頷いておけ。下手に喋ると長くなるぞ」
 ライドウの右足の甲を肉球で押して、ゴウトがそう忠告する。ライドウは余計に困ったが、やはり顔にはあまり出なかった。
作品名:縁の糸 作家名:小柴小太郎