Four promises
「ルナって僕やラビが入団するずっと前から教団にいたんですよね?」
「そうだけど?」
「神田と同期なんですよね?」
「私の方が少し早いけど、まぁ同じくらいだな」
「ずっと一緒だったんですよね?」
「・・・何が言いたい?」
「ルナ、神田のこと好きなんですか?」
突然の質問にルナは顔を真っ赤に染めた。
今まで恋愛事なんか興味が無かったし、話題にしなかったこともある。
そんな彼女の様子を見たラビの顔が少しムっとした表情になったことに二人は気付かなかった。
「な、何言ってんだ!?アレンっ!?」
「うわ・・・その声の裏返り様・・間違いないですね・・・」
「か、神田は昔からずっと一緒にいるし、べ、別に・・・・っ」
「いや、そんな事はどうでもいいんですけどね?」
「ハァ・・・?」
「神田だけはやめといた方がいいと思います」
アレンとルナの間に沈黙が流れた。
しばらく無言が続いていたが、その空気を破ったのはラビだった。
「なぁ、ルナ」
「お前らは・・・さっきからなんだっ!?今は任務中だぞ!?」
「複数形にしないでほしいさ!俺、さっき何も言ってねぇし」
「ほんとですね。珍しい・・・ラビなのに」
「ちょっ・・俺だってそういう時ぐらいあるさー」
珍しいモノを見るようなアレンに腕を振りながら反論するラビ。
こほん、と調子を整えニヤっと笑みを浮かばせながら再びルナの声をかける。
「ルナ、好きなヤツいねぇの?」
「・・・・・・」
再び沈黙が始まった。
アレンは少し気になり何度かルナに視線を送るが呆気なく無視されてしまう。
質問した当の本人のラビは先頭を歩くルナの背中をじっと見つめる。
「・・・いるわけねぇだろ」
普通なら嬉し恥ずかしな恋話もこの空気では重苦しいものであることに変わりはない。
重苦しい沈黙が続く中、話し始めたのはルナのイノセンス――ソグ。
「ごめんなさいね。ラビ、アレンさん」
「いやいや、こっちこそごめんさ。ソグ。ご主人様を困らせたみたいでさ」
「僕が悪いんです。神田なんか話に出すから」
バカンダめ、と嫌そうな表情を浮かべながら呟くアレン。
アレンにしては珍しく眉間に皺が寄せられている。
「いや、そこは関係ないと思うさ!?」
「ソグ、迷うなよ?」
ルナは会話に混じらないよう前を向きながらイノセンスに言い放った。
もちろんですよ、と微笑を浮かべながら赤い目を主に向ける。
「プリンチベッサは恥ずかしがり屋なんです♪」
ラビとアレンが同時に体を強ばらせた。
ルナは肩を震わせて歩調を変えることなく歩き続けている。
「ちょ・・ソグ・・さん?」
「ソグでいいです。アレンさん」
「じゃあ、僕もアレンでいいです」
「ルナは恥ずかしがり屋なんさ?」
「えぇ。本当のことをいつも口に出せない、可愛らしいプリンチベッサなんです」
彼女の中で何かがプツンッと音を立てて切れた。
「ソグ・・・いい加減にしろよ?」
「まぁ、プリンチベッサ。本当のことを言っただけじゃありませんか」
「あのな、言っていいことと悪いことがあるんだよ!」
「リナリーとの約束を忘れたの?姫?」
「・・・ちっ」
「姫っ!?」
アレンは驚いた表情を浮かべてルナの方を見た。
ルナは変わらず歩き続ける。
「あぁ、プリンチベッサていうのは、イタリア語で“姫”って意味なんさ♪」
「へぇ博識ですね、ラビ。でも何で“姫”なんですか?」
「それは機会があればお話ししますよ。ラビ、アレン」
「あいつらの前で二度と発動なんかするか」
任務以外でな、と付け足す。
「次の角を曲がったら最深部です。」
「「「了解」」」
ラビはホルダーから槌を取り出し、アレンは手袋を外した。
三人の周りの空気が無機質に感じられる。
彼らは最深部に辿り着いた。
割れた岩の隙間から光りが差し込んでいた。
きっと、ここは深い地下にある空洞なのだろう。
一番奥にある壁には大きな何かの絵が描かれていた。
その壁の手前にある不思議な形をした像に光る物体が差し込まれていた。
「イノセンス発見!」
それの放つ独特な仄かな光を目がけてラビは駆けだした。
途中、変わったことは起こらず、何事もなく壁際まで辿り着いた。
まるで何かにそうさせられているかのように。
像のもとに辿り着いたラビは差し込められていたイノセンスをぐっと引き取る。
イノセンスは変わった様子はなく、仄かな光は未だに止むことがない。
「・・何も起きないわね?」
「それならそれで万々歳さ!」
「そうですね。早く帰ってジェリーさんのご飯が食べたいです!」
アレンは顔をキラキラさせながらイノセンスが差し込まれていた像のある高台からぴょんっと飛び降りた。
途端、ゴオオオという地響きとともに地面が揺れだした。
ルナとラビは近くにあった像にしがみつき、アレンは床に膝をついた。
「アレン!大丈夫さ!?」
ラビは地響きに負けないよう、大声を張り上げる。
それに答えるようアレンも大きな声で返事をする。
「大丈夫です!でも・・・これって・・」
アレンが言葉を続けようとした次の瞬間、ルナとラビのいる高台の床が崩れ落ちた。
あまりに突然の事に反応できず二人は床と共に落ちていく。
突然の事だった。
アレンが高台から飛び降りた瞬間地面が揺れだして、近くにあった像を掴んだ。
隣にいたラビも必死に像を掴んでいた。
そして、また突然に床が崩れ落ちたのだ。
落ちていく感覚を感じながら、そっと触れられ、そしてぎゅっと抱きしめられた。
温かかった。
しばらくして揺れが収まりその場で立てるようになった。
アレンは足下に気をつけながら出来上がった大きな穴に駆け寄る。
下は真っ暗で底が見えなかった。
大声で名前を呼んでみたが返事が返ってくる事は無かった。
「どうしよう・・・ティムキャンピー・・・?」
今にも泣きそうな顔で黄色いゴーレムに話しかける。
ティムキャンピーもどうしたらいいか分からず少し慌てている。
「僕もリナリーみたいなイノセンスが欲しかったなぁ・・」
そうすれば今すぐにでもラビ達のところへ駆けつけるのに、と溜め息を吐く。
アレンはさらに危機に陥った事を悟った。
「どうしよう、ティム。僕一人だ・・・」
ティムはアレンの周りを一周した後、頭の上に乗った。
「絶対迷子になる・・・!」
このまま穴に飛び込むか、戻って別の道を探すか二つに一つ。
アレンはその場に佇んでしばらく考え込んでいた。
私はまださっき感じたあの温かい感覚の中にいた。
(動ける・・・生きてる・・・・・)
緩慢な動きで瞼を開いた。
目の前は真っ暗だった。
と、判断した途端光が現れた。
「おっ、気が付いたさ!?ルナ」
目の前のラビの顔が現れ、しばらく脳は停止状態だった。
「ルナー・・?ま、まさか怪我したんさ!?」
心配そうにルナの顔をのぞき込むラビ。
そこでルナは今、自分のいる状況を確認した。
「・・!はっ、離せ!ラビっ・・・!」
作品名:Four promises 作家名:大奈 朱鳥