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Four promises

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つい今まで、彼女はラビに抱きかかえられていた。
離れた瞬間に感じた冷えた感覚。
どれほど長い時間彼に抱きしめられていたのか分からない。
ルナは顔を真っ赤にした。


「っつ・・」


足に鋭い痛みを感じ、思わず顔を歪ませる。
ラビがそれを見逃すハズも無かった。


「!やっぱり怪我してるんさ、ルナ」


見せてみ?とルナの足に触れる。


「さっ、触るなっ!」


血相を変えてラビを見る。


「・・・ルナ。このままだと悪化するさ」


今まで見たこともないような表情だった。
いつもヘラヘラ笑ってて、飛び回るくらいの元気があって。派手で。
私をのぞき込む彼の表情は真剣そのもの。



――――――いや、昔に見たことがあったかもしれない。
そういえば、ずっと昔に任務が一緒だったとき・・・




「ルナ!横、横っ!!」

「分かってるよ!」


ある任務の帰り。
イノセンスを手に教団へ帰ろうと歩を進めていた私たちの前に大量のアクマが現れた。
レベル1だけでなく、多少手強いレベル2もいた。
私とラビはすぐにイノセンスを発動させて応戦した。

もうすぐで全滅・・・というところだった。
再び大量のアクマの集団がこちらにやって来たのだ。
またすぐに武器を構え直す。


私のイノセンスは装備型であるが、たいていソグ―――戦う者は私から離れている。
要するに、私はいつも無防備なわけだ。
神田やラビとは違い接近戦に向いていない、遠距離型のエクソシスト。
だから、私はいつも修行を人の2倍、いや3倍はするようにしていた。
寄生型エクソシストと違い、アクマの攻撃で瞬く間に死んでしまうのだ。


ソグは攻撃も出来るし防御も出来る。
しかし、俺を守っていたら攻撃の方が疎かになる。
ソグが攻撃に集中出来るように体を鍛えた。
神田と出会ってから、よく一緒に修行をした。
足手まといにならないように毎日努力した。
剣道、組み手、空手、走り込み・・出来るだけの事は全てやってきたつもりだった。
周りの人から、もうこれ以上する必要は無いんじゃないかと言われた。
しかし、今回のこの任務で自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
本当に全ての事をやってきた「つもり」で終わっていたのだから。

すべては死なないために。
エクソシストとして生き続け戦う為に。
なのに。


「ルナ!!後ろ!!!」

「えっ・・・」


ドッと背中に何かが刺さった。


「ルナ!!クソ・・・っ」


ラビの声が聞こえた。
次に地面に叩きつけられる感覚がした。


「劫火灰燼!火判!!」


ゴォォォと音をたてて凄まじい勢いの炎の柱がアクマを飲み込む。
残ったアクマを全て片付けたラビが私に駆け寄ってきた。


「ルナ!?・・・クソ!アクマの攻撃に・・・!」

「ああ・・・死ぬみたいだな」

「・・・アレ?」


素っ頓狂な声を上げて私を見る。
目を丸くして私の体を見てくるラビ。

(・・っ、バレたか・・?)


当時の私はコムイは知っていたが、男装をしていた。
しかし、成長していくに連れ体はそれに見合った変化を遂げる。
腰周りは細くなり、胸も膨らむ。
顔もほっそりとしてくるし、肌の色も白い。

(神田もけっこう白いけど・・)

コムイに相談しながら団服に細工をしてごまかしていた。
まさか、こんな形でバレるとは―――――

ラビから放たれた言葉は意外なものだった。


「アクマの血のウイルス・・・ペンタクルが現れない・・・」


女だとバレていない様だった。
一瞬安心し、また現実と向き合う
確かにそうだ。
アクマの攻撃をうけてからしばらく時間がたっている。
普通、攻撃を受けてすぐ全身にアクマの血のウイルスが広がり体が砕け散る。
私の体には五芒星――ペンタクルが浮き出てなかった。
間違いなく攻撃は受けた。
その証拠に背中からは未だ血が流れ続けている。


「どういうことさ・・・?」

「私ですよ、プリンチベッサ」

「ソグ?アナタ、治療も出来たの?」

「いいえ。出来ませんよ」


なら、どうして私は死なないのだろう。
ラビも困惑している様だった。
しかし、実際に体は攻撃を受けた痛みを感じる。
コムイは何か知っていたのだろうか?

「普段から姫の体の回りに薄く防御壁をはっていまして」

「じゃあ、何でルナの体から血が出てるんさ?」

「その防御壁は物理攻撃を跳ね返す事は出来ません」


近くに私がいれば大丈夫なのですけど、と赤い目を此方に向ける。
我がイノセンスながら吃驚だった。
私ですら知らない能力が隠されていたなんて・・・


「姫は私に攻撃ばかりさせようとします」


薄らと微笑を浮かべて見つめるソグ。
ラビは真剣な表情でそれを聞いていた。


「ですが、私にとって一番大切なのはプリンチベッサ一人です」

「え、俺ら大切じゃねーの!?」

「まぁ、姫の友達なら私にとっても友達、大切な方なのですが・・・」

「友達じゃねーんさ!?」

ラビは少し戯けた顔でソグを見る。
ソグは微笑を浮かべていた。

「うるさい・・・戻るぞ」

「戻るって・・・どこに?」

「教団に決まってるだろ!?馬鹿か、テメーは!?」

「その前に病院さ。ルナ」

「そんなのどうでもい・・・」

「どうでも良くないさ!!」

ラビに怒鳴られたのは初めてだったかもしれない。
普段からへらへらしてて怒鳴るなんて考えられなかった。

「もし、今、この状態のまま教団に戻る途中でルナが何か病気にかかったら?
 その前に、出血多量で後戻りできないような状態になるかもしれないさ。」

一事が万事、そう言ってラビはニコっとルナを見た。
ルナは驚いた様子でラビの翡翠色の眼を見る。

そして立ち上がろうとした瞬間、体に激痛が走った。
先程の通り体の傷の治療は出来ないらしい。
もっと鍛えれば治療も出来るようになるのか、と考えているとそっとラビが肩を貸してくれた。


「俺らをもっと頼ってくれさ」

――――――同じエクソシストさ




その時の顔と似ている気がする。
あれから数年経った。


「ん、俺の顔に何かついてるさ?」

「え・・?」


知らないうちにラビの顔を見つめていたらしい。
顔が赤くなっていくのを感じた。
それが見られたのかと思うと恥ずかしい。
考えるほど顔に熱が篭もっていく。

気が付けば、ラビがこちらを見つめていた。
それも、普段はしないような真剣な表情で。


「ルナ・・・もしかして・・・・・」

「なんだよ?」

「熱あるんじゃねぇの?」


もう考えるのは止めた。


「イノセンス発動ッ!」


右手の中指に嵌められている指輪が神々しく光り出す。
その光の中から現れるルナのイノセンス、ソグ。


「お呼びですか?プリンチベッサ」

「今の俺の修行量なら治療が出来るようになってるんじゃないかと思ってな」

「・・・姫。確かに出来ますよ」

「マジで!?ソグ、すげぇさ!!」


ラビは驚嘆の表情でソグを見つめた。
「ブックマン」にとってもそれはすごい事なのであろう。


「ただし、姫。アナタはそれを行うだけの気力がもうありません」

「「!」」


今度はラビもルナも驚きだった。
作品名:Four promises 作家名:大奈 朱鳥