Four promises
今までルナの思うことが出来なかったことは無いのに。
何故、今、この時に限って・・・。
「姫。この状態のままで治療を行うと気絶するかもしれませんよ?」
「・・・死にはしないんだな」
「はい。でも私がそんな事許しません。プリンチベッサ」
そういえばイノセンスを発動させてから体が重くだるい。
息も肩でしなければならないほど苦しかった。
「相変わらず、ソグはルナのストッパーだなっ」
ラビはそう言って立ち上がり、ルナを背負って道無き道を歩きだした。
「本当は私を具現化するのも辛いはずなのに」
「ルナは無理しすぎなんさー」
「おっ・・降ろせ!ラビ!自分で歩ける!」
「無理すんなって」
ラビの背中の温かさを直接感じる。
ソグとは違った温かさ。
「もうすぐすりゃ、アレンと合流出来るって」
そこでソグを含める3人は彼の言葉を思い出した。
さぁぁと顔に青筋が走る。
“僕、迷子になりやすいんです!!!!”
「大丈夫なのか・・・?アレン」
「そういえば前にユウから聞いたけど、一緒の任務中に迷子になったらしいさ・・・」
「それは私も直接神田に聞いた。例のマテールの亡霊の件だろ?」
「うん。地下迷路が広がっててそこで・・・」
沈黙が流れた。
「・・・ユウのヤツは厳しいからな。滅茶苦茶言われたんだろうな・・アレン」
再び沈黙。
どんよりとした空気が二人の周りを包み込む。
口を開いたのはまたもラビだった。
「アレ?ソグは?」
「リングに戻った。アイツを具現化するのは俺の心の力を消費するからな。疲れる・・・」
「なんか特別なイノセンスだよな。ソグって」
「まぁな」
「ソグもすげぇけど、その適合者のルナもすげぇさ」
そんな会話をしながら二人は真っ暗の地下道を進んでいった。
同じ頃、二人と共のこの地に赴いたもう一人のエクソシスト、アレンは―――――
「イノセンス発動!」
アレンの左腕から目映い光が放たれる。
そして一気に形状を変え、彼の姿はまるで道化師の様に。
「ティム。ちゃんと捕まっててよ?」
アレンの周りを飛び交う黄色いゴーレムは彼の頭の上に乗った。
そして―――――
ドゴォォ
神殿の最深部の部屋に大きな穴があき、たくさんの光が天使のはしごの様に差し込む。
アレンは出来上がった大きな穴から外へ飛び出す。
「やっぱり、僕一人で迷うより応援を呼んだ方がいいですよね?」
自分に言い聞かせるようにして呟く。
そして遠くに見える街を眺める。
「街も見えた。行くよ、ティム」
白い道化師は足早に神殿から去り街へと向かった。
アレンが街へ行くことを決意したのには二つ理由がある。
一つ目はルナとラビが一緒に穴に落ちていったこと。
二人ならなんとなく大丈夫な気がしたのだ。
二つ目は自信が極度の迷子体質であること。
このまま穴へ落ちていったとして二人を見つける保証はないし、自分が迷子になる確率の方が遙かに高い気がしたからである。
結果、一度街へ戻って教団本部に連絡する事にした。
今回の任務が3人で良かったと本気で思った白髪の少年。
通ってきた道を颯爽と駆け下りていった。
「さっきから思ってたんだけど・・・」
ラビの背に担がれたルナが彼の耳元で呟く。
「なんか違和感感じるんだよね・・・今回の任務」
「俺もなんかそんな感じする」
深い闇の中を進んでいく二人。
ぴちょん、ぴちょんとどこからか水の垂れる音が聞こえてくる。
「おかしくないか?さっきの最深部の部屋もそうだったが・・・」
「ああ、アクマが一匹も出てこない」
街は完全にアクマによる攻撃を受けて壊滅していた。
人は灰になって消えていった形跡も残されていた。
街から神殿、さらには神殿の中までアクマの気配が一向に感じられない。
「アクマがいたらアレンが気付くハズさ。でも・・・」
「アレンは一度もアクマの気配なんて感じなかった」
「ソグも特に変わった様子は無かったし・・・」
歩きながらいくつかの疑問点を挙げていった。
二人は頭を悩ます。
突然、ラビは何かに気付いたかのようにルナの方へ首を回す。
「ルナ、ここは『神殿』さ」
何を言い出すのかと思えば分かり切ったこと。
任務の詳細にもこの神殿にイノセンスがあるかもしれないとハッキリ書かれていた。
そして実際にこの神殿の最深部にイノセンスはあった。
しかし、取り上げた瞬間床に穴が空き地下奥深くまで落下したのだ。
ラビは続ける。
「大昔から神殿ってのは神聖な力が宿るその名の通り『神』の場所さ」
「私は神なんて信じてないけどね」
ラビは苦笑を零す。
「もしかしたらこの神殿の力のおかげでアクマが近づけないのかも」
ルナはラビの説も有効かもしれないと思ったが、なんとなく違う気がした。
「いや、アクマは千年伯爵が造り出したただの破壊兵器よ?」
「そりゃ、知ってるけど・・」
「そんな太古の人が信じてきたような神聖な力が及ぶとは考えにくいと思うがけど」
「もしかしたらって事もあるさ?」
「まぁ・・ね」
「実際、この神殿に入ってからアクマにやられたような跡なんか一つも見てねぇし」
考えてみるとそうだ。
今までソグに従って通ってきた道にはアクマの気配、ましてやアクマがいた跡のようなものさえ無かった。
ここに来るまでにアクマがいたと認証できたのは神殿に来る前の街ぐらい。
考えれば考えるほど謎だらけの場所。
「アクマ」と「神殿」。
この二つの繋がりは二人を深く悩ませた。
さっきまで・・・アクマの気配なんて全く感じなかったのに!
アレンは悪態を吐くように心の中で呟いた。
ラビとルナと初めこの街に訪れたときは全くと言っていいほどアクマの気配を感じなかった。
左目もアクマの気配を一度も感じていない。
それがまるで嘘だったかのように、今街にはアクマが大量発生している。
イノセンスを発動させ一つ一つ倒していく。
―――一体どこから湧いたのか
「あぁ~せっかく持ってきたのにィ~」
「・・っ!お前は・・・・」
「やっほーアレンー♪」
「ロード・・・っ」
黒の教団の設立の理由。それは世界の終焉を防ぐため。
世界の終焉を目論むもの、それはエクソシストの敵であるノアの一族。
彼女はノアの一族の長子、ロード=キャメロット。
「あれぇーん、ダメじゃーん。せっかく運んできたのにィ」
「ロード・・・何のためにこの街へ?」
「もちろんアレンと会うため~♪」
「それは光栄ですね・・・」
街に侵入してきたアクマのほとんどは倒した。
あとはこのノア。
アレンの心の中はスッと研ぎ澄まされていった。
分かっているのか分かっていないのか。
ロードは冷ややかな眼でアレンを見る。
一瞬アレンの体は硬直せざるを得なかった。
「出来る?出来ないでしょ?アレンにはヒトを殺せない」
そして全部倒したハズのアクマが現れた。
「アレンは知ってるよね?」
「・・・何をです?」
「アクマの自爆・・それが何を表すか・・?」
「・・・っ、まさか」
「そーお♪そのまさか♪」
作品名:Four promises 作家名:大奈 朱鳥