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皆戸 海砂
皆戸 海砂
novelistID. 15686
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meet again

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 翌日に乙女の大イベント『告白』を控えていた少女は、そのときに着る予定だったらしいピンクのふわふわしたワンピース。
 シュートは単純に高校球児だったらしい。ユニフォームに帽子。バットと数個の球を抱えていた。練習用なのか高校名などは書かれてないが、背中の『1』がどうにも気になる。さてはエースか。というかシュートなのに野球なのか。親が泣いてるぞ、きっと。


「……名前がいるな」
 何をするにしても、とりあえず味方を識別するのがまず先決だ。『おい』とか『お前』で通じるのは30年連れ添った夫婦だけで、初対面の俺らには使えない。使えたら怖い。
「ああ、オレ以外覚えてないッスもんね」
 その時、少女が俺を指差して言った。
「ウイング。決定」
 何故。
「二人とも、ハンター×ハンターってマンガ知らない?」
「知っているが、何故そうなる」
 本誌でしか読んでないからよく覚えてないがそんなキャラ、いたか?
「オレは野球ばっかやってたんで、その辺はあんまり……名前くらいは知ってるけど」
「えっと、天空闘技場で念を教えてくれた人。黒髪で寝癖ついててメガネかけてて……」
 言われてみればそんなキャラもいたような気がするが、なんせ冨樫なので記憶は曖昧だ。何年前の話だ。
「で、それが俺に似てる、と?」
「も、そのまんまちっちゃくした感じですよ」
「まあ、特に不便もないしそれでいいかな……」
 言った後、頭の片隅で何か不吉な予感がした。さっきと同じだ。
 何が引っかかったのか……『ハンター×ハンター』
「ああっ!」
 俺の声に二人が驚く。だが一番驚いたのは多分俺だ。
「どうしたんスか?」
「……俺は念が使える……っぽい」
「ええっ!」
 今度は少女が驚きの声を上げる。そりゃそうだ。
 あんまり覚えてないけれど『練』を試してみる。こう、全身の毛が逆立つ感じというか、スーパーサイヤ人というか、そんな感じのイメージで。ついでに二人をイヤミな学年主任だと思うことにしよう。
 少し時間が掛かったが、練ったそれをゆっくりと広げていき、俺の体から発する煙がゆっくりと二人に届く。瞬間、シュートは後ろに飛びずさり、少女はガタガタと震えながら眉をひそめた。
「何スか、この嫌な感じ」
「……10歳でもウイング……」
 力を抜いた。どうやら俺のオーラの総量はあまりないらしい。全身にずっしりとした疲労感を覚える。
「多分、二人はまだ念を覚えていないんだろう。ていうか、何で俺が使えるのかもよくわからん」
 シュートが微妙に俺を警戒しながら、元いた位置に戻る。少女はまだ震えている。
「念が使えるってことは、ここはH×Hの世界なのかな?」
 そう考えるのは早計だ。念じゃないかもしれないし、TVでハンドなパワーを見せ付けられるたびに奴らは念能力者じゃないかと疑ったりもした。つまり元の世界に念が存在する可能性もある。
といったことを説明したら、二人同時に「ハンドパワーって何ですか?」と聞かれた。鬱だ。マジシャンとか手品とかセロとか耳がおっきくなっちゃったとか言ったらわかってくれた。こいつがジェネレーションギャップってやつか。
「じゃあ、とりあえず外に出てここがどこか確かめるのが先決っスね!」
 言うと同時に立ち上がるシュートの襟首を少女が掴む。うわっ見事に絞まったぞ、アレ。死んだか?
「闇雲に外に出るのは危険だと思うの。日本でないのなら特に。どんな危険が潜んでるかわかったもんじゃないし」
 慎重論。さっきの獣の咆哮もあるし、確かに今はまだここにいた方が安全かもしれない。
「だが、ここにいても食料も水もないし、早い内に出なきゃならんだろう。俺の念があればただの獣相手ならとりあえず大丈夫だろうしな」
 シュートが気絶している間にサクサクと話を進める。
「じゃあ、シュートの目が覚めたら出発するってことで、いいか?」
「その前に私の精孔を開いてください」
 は。何を言いやがりますかこのおジョーさんは。つか精孔ってなんだっけ……
「私後ろ向くんで、私の背中に手をついて『発』をしてください。それで開くはずですから」
……これって、何かすごく危険なことじゃなかったか? 失敗したら死ぬとか、死ぬとか、死ぬとか。
「私は一刻も早く元の世界に帰りたいんです。そのためなら多少の危険なんてどうってことないですよ」
 度胸があるのは認めるが、念を覚えたからといって元の世界に帰れるとは限らないのではと言ったら殴られた。乙女の恋心は強化系よりタチが悪い。
「それに私には原作の知識がありますから、そう簡単に死んだりぶっ倒れたりはしないと思います。ウイングさんが私を殺す気か、手加減無しにオーラを送り込んでこない限りは」
 そういって無邪気に笑う。
 念じゃなかったらどうする気だとか、俺がミスったらどうするんだとか、言いたいことはたくさんあるけれど、最終的には少女の健気さに心打たれ精孔を開くことにした。ごめん嘘、この子の目が怖かったんです。やらなきゃ殺られる、そんな感じでした。僕まだ死にたくありません。
「じゃあ……死んでも恨みっこ無しってことで……」
 オーラを練る。膨れ上がる。少女の無防備な背中に手を当てる。……送り込む!

 すぐに纏をマスターすることが出来なかった少女はオーラを出し尽くして倒れ、目覚めるまでに三日を要した。
 その間に俺と目が覚めたシュートは、出来るだけ小屋から離れないように留意しつつ、とりあえず二人で食料と水を確保した。
 シュートのピッチングコントロールは見事なもので、その辺の小石でウサギや鳥などを次々と気絶させていく。
……もしかして、三人の中では俺が一番いらない子? 泣いてもいいかなぁ?

作品名:meet again 作家名:皆戸 海砂