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皆戸 海砂
皆戸 海砂
novelistID. 15686
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meet again

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『逃避』


 拳大の石を木に向かって放る。悲鳴が聞こえ、ハトとキジを足したような変な鳥が落ちてくる。
 拾い上げてウイングさんに手渡す。次の獲物を探す。今日、これで何度目だろう。
 後ろから獲物を抱えてついてくるウイングさんが何かブツブツ言っているが聞こえない。表情がすごく暗い。何かあったんだろうか。

 目を覚ました時、オレは見知らぬ場所にいた。もちろん驚いたけど、それ以上に安心した。
 一緒にいたウイングさんと少女(名前は彼女が目覚めてからつけるらしい)と、覚えていることについてお互いに話したけど、オレには言っていないことがある。ただ、野球が好きで甲子園を目指している、とだけは言ったけれど。

 オレは、小さな頃から野球が好きだった。両親はサッカー選手にしたかったらしいが、駄々をこねて少年野球のチームに入った。
 すでに二人とも引退しているが父親がプロのサッカー選手、母親がバスケの実業団選手だったこともあり、体格や運動神経には恵まれた。四年生で、エースで四番。チームメイトに恵まれず大きな大会で勝ち進むことはできなかったが、スカウトの目には留まる。
 私立中学に特待で進学。一年の冬にはエースになっていた。二年の春には四番打者になっていた。
 そして高校一年の春、オレは甲子園常連の名門校に入学する。そこにもオレのライバルはいなかった。
 夏の大会の時にはすでにエースナンバーを背負い、盗塁も出来る四番打者としてそこそこ名をはせていた。
 そして、県大会の決勝。これに勝てば甲子園、という場面の9回裏。オレ一人、四死球ボークエラーの連発でサヨナラ負けを喫した。
 周囲の視線が冷たくなる。けれども人間一度くらい失敗すると、チームメイトは慰めてくれた。
 その後、春の選抜、二年の夏の大会、いずれもオレは県大会の決勝で同様の失策を犯して負けた。
 甲子園の常連校が二年連続で県大会落ち。しかもその責任の大半はオレ。……もう、オレを庇う者はいなくなっていた。
 オレ以上に優れた投手はチームにはおらず、『県大会決勝』以外では充分すぎるほどの活躍を見せていた。 そのため、エースナンバーを剥奪されることもなく、学校をクビになることもなかった。けれど、毎日は針のむしろだった。まるで、野球の出来ないオレは虫けら以下だとでも言うように。誰よりもオレ自身が、自分でそう思っていた。
 それを振り切るために、自分に自信をつけるために、必死で日々の練習をこなしていた。
 そして三年、最後の夏。いつものように予選は快調に勝ち進み、明日が県大会の決勝。
 どうしようもなく怖かった。また、前と同じことを繰り返すんじゃないかと。そうしたら、今度こそ見捨てられる。
 両親とも約束していた。一度も甲子園に行くことが出来なかったら、野球をやめる、と。そんなことは耐えられない。野球はすでに、オレの生きがいであり、命そのものであったから。
 前日の夜、監督に早目に休むよう指示されていたけれど、オレは夜遅くまで、プロ野球中継の録画を見ていた。
 尊敬する選手達が、何万人という観衆の中でどうやって己を保ちプレイしているのかを、知りたかった。
 眠れないと思いつつも、ベッドに入る。9回の悪夢がまるで今現実に起こっているかのようにオレに襲い掛かってくる。
 オレが悪いんじゃない! オレがいなければ決勝に勝ち進むのも容易じゃなかったはずだ!
 けれど実際に自分でやらかした過去がオレを追い詰める。不安で、不安で、不安で、不安で、逃げ出したかった。
 無理に目を閉じて、何とか寝ようと試みる。眠れなくても寝なくちゃいけない。少なくとも監督は、8回まではオレに投げさせるだろう。少しでも、休息を……。


 そして、目覚めるとあの場所にいた。
 ああ、これでもう、決勝戦で投げなくてすむ……。


「おーい、もうそろそろいいと思うぞー」
 ウイングさんに声をかけられて、はっと我に返った。無我夢中で石を投げていたのか、ウイングさんは大量の獲物を抱えてフラフラしている。あわてて半分を受け取った。
「いやー、さすがエース。見事なピッチングだな。ほとんど百発百中じゃね? お前、元の世界に戻ってもこれで食っていけるよ。今のうちにサインもらっておくかなあ」
 ウイングさんが好意的に言ってくれているのはわかってる。けれど、その言葉にオレの胸は痛む。
曖昧に笑って、最初に寝ていた小屋へと向かった。オレは今、ちゃんと笑えてただろうか。

 小屋に獲物を置いて、今度は水を汲みに出かける。川が近くにあったのと、小屋に桶がいくつか置いてあったのが幸いした。
「お前、体力もハンパないよなぁ。やっぱスポーツやってると違うんだろうな。俺も何かはじめるかな……って、その前に現状を何とかしなくちゃいけないけどな」
 ウイングさんが必死で桶ひとつを抱えている横で、オレは楽に二つを抱えている。体は小さくなったけど、身体能力はそのまま残っているみたいだ。
「念ってのを使ったら軽々と持てるんじゃないスか?」
「ばか言え、俺の容量なんて微々たるもんだ。小屋にたどり着く前にぶっ倒れちまうよ」
 オレにはオーラが見えないから、そういったことはよくわからない。でも、この世界で安全に生きていくためには念とかいうものを覚えたほうがよさそうだ。
「ウイングさん……小屋に戻ったら、あの子にやったのと同じこと、オレにもしてください」
 後ろから大きなため息が聞こえた。
「そうくるんじゃないかとは思ってたけどなぁ……お前は原作を知らないからアレだけど、命にかかわるくらいヤバいことなんだぞ?」
「わかってるッス、多分」
 彼女が危険を承知でそれをやったということは、きっと必要なことなんだろうと思う。それに、オレだけが何も知らない、見えない、というのも少し悔しい。
「わかってないと思うけどなぁ……ま、俺もなんとなくコツは掴んだし、死ぬことはないだろ。どうせあのお嬢ちゃんもしばらくは起きれないだろうしな」
 小屋に着く。彼女はまだ、死んでいるように眠ったままだ。そして入口を入ってすぐ脇の壁に寄りかかっているウイングさんも、ちょっと死にそうになっている。
「ちょ……俺が、息、整えてからな。コントロール、できなかったら、やばいし」
「はい」
 彼が休んでいる間、オレは日課の腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワット各千回をこなす。すっかり習慣になってしまって、やらないと落ち着かない。
「ええい、連邦軍の新型は化け物か!」
 ウイングさんがよくわからないことを言っているけど、とりあえず休息は終わったようだ。
「それじゃあ、よろしくお願いするっス」
 彼の言うとおりに、ユニフォームの上を脱いで背中を見せる。アンダーは着たままでもいいらしい。
「見せてもらおうか、連邦軍のモビルスーツの性能とやらを」
 やっぱりウイングさんの言うことはよくわからない。けど、背中に押し当てられた熱は本物だ。……少し、気分が悪い。
 一気に何かがオレの中に流れ込んできた。そして体全体が熱くなって、全身から煙がほとばしる。
「ゆっくりでいい、その煙が自分の周囲にとどまるようにイメージしてみろ」
作品名:meet again 作家名:皆戸 海砂