meet again
「私たちは旅行で来てる人たちと違っていつまでいるのかわかんないから、そうずーっとお世話になるわけにはいかないのよ。お風呂を貸してもらえるだけでも充分ありがたいんだから。それを、ミトさんによろしくお願いしておいてもらえるかな?」
パームの言葉にゴンもしぶしぶ頷く。……違うな、アレはきっと目が怖かったんだ。俺の時と同じで、言うこと聞かなきゃ頭からバリボリ食っちまうぞ的な目つきだったに違いない。女、マジ怖ぇ。
「じゃあさ、オレ、毎日ここに来てもいい? いろんな話聞きたいし、シュートに野球も教えてもらいたいし、オレの友達とかも紹介したいしさ!」
「もちろんそれは俺たちも大歓迎だよ。そのうちミトさんにもご挨拶に行きたいしな」
何だかんだいって、ゴンは素直でいい子だ。だから俺が気絶してる間に、二人も彼を受け入れたんだろう。 異世界から来たなんて言ったって普通は信じないしな。
でもそんな簡単に他人を信じちゃ駄目だぞゴン。普通、何事もまずは疑ってかかって、拳を交えたりしながら紆余曲折を経てマブダチになるもんだ。……って、原作で誰か言ってたな、カメレオンの奴。あーでも、俺とゴンが拳交えたら死ぬか、主に俺が。
日が随分と傾いた頃、パームの目力のおかげでゴンは一人で帰っていった。また明日も来るよ、と告げて。
「予想外の展開だったけど、オレらが今いる場所がわかっただけでも収穫にはなるんだろ? きっと」
「っていうかそんなことよりウイングの予知能力者の真似がさー、もー超ウケる」
思い出したのか二人してひとしきり大笑いしやがった。ああもう、最近のガキどもはこれだから嫌だ。好かれてんだかおちょくられてんだか、いつも俺の周りに無駄にわらわらと寄ってきてた生徒どもを思い出す。高校生の考えてることなんて全くわかりゃしない。ほんの10年くらい前までは俺も高校生だったはずなんだけどなぁ。
「あとは、今が原作より前だってことも重要な情報だ……っていつまで笑ってんだお前ら、しまいにゃ殴るぞコラ」
「ごめんっス……いや、でも……ぷフっ……」
とりあえずシュートの頭を叩いておいた。誤解のないように言っておくがパームほどのマジ殴りじゃないからな。ツッコミ程度の軽い奴だ。
「ゴンが試験を受けたのが12歳になる直前だったから……実質原作より二年弱ほど前になるかな」
原作ゴンの具体的な年齢まで覚えてるとは……この女、侮れねぇ! だからといってけして好意的になるなんてありえないけどな。殴られた恨みは意外と深いぜ、パーム。いや、まぁ、ぶっちゃけどうでもいいんだけど。
「私の考えなんだけど、帰る方法は三つある」
え、俺ひとつしか思い浮かばなかった。パーム、意外に頭キレるな。
「ひとつは、念能力による帰還。この中の誰かが、異次元への扉を開く能力にすればいい」
「そう簡単にできるもんスか?」
「まず出来ないと思う、多分。そこで」
「グリードアイランド、だろ?」
グリードアイランドの中にあるカード。クリア報酬として外に持ち出したカードを使って帰還する。あのゲームシステムには興味を持っていたから、GI編に関してはほとんどの内容を覚えている。
「あくまで予想だが、使えるカードは『磁力』(マグネティックフォース)『離脱』(リープ)『同行』(アカンパニー)『再来』(リターン) あたりだろうな。それで帰れなきゃどうしようもないと俺は思ったんだが……もうひとつは?」
「神頼み。気まぐれでこの世界に飛ばされたんだから、神様の気まぐれで元の世界に突然戻ることもありえないわけじゃないでしょ。つか神とかホントにいるんなら私らをソッコーで元に戻せって感じだけど」
……ようするに、どれも信憑性が薄いってことだね。うん、そんな気はしてたよ、ここに来たときから。
念も覚えたし、別に元の世界に戻れなくても俺は構わないような気がしている。定年はまだ遥か先だったけど、これから第二の人生を歩むと思えば別にこの世界もそんなに悪くない。多少危険ではあるけどな。
あ、シュートが捨てられた子犬のような目をしてる。一人だけ話についてこれないのは辛いだろうな。
だがフォローはしない。自力で俺達の話についてこれるまで学んでくれたまえ。聞かれたら答えるからさ。
「現時点での肉体能力に関してはシュートがダントツだと思う。念に関しては系統や作る能力にもよるだろうが、現時点で一番オーラ量が少ないのが俺、多いのはパームだ。パームは覚醒させた時のオーラの放出量がハンパじゃなかったからな」
「えーと、じゃあ、まずは念の能力を磨けばいいってことっスか?」
ついてこれないなりに、理解しようと努めている。シュートも、どうやら頭はそこそこ切れるようだ。
「とりあえずはそうだけど、グリードアイランドに行くためには出来ればハンターライセンスをとっておきたいところなんだよね。だから最初は、シュートは念の修行、私とウイングは肉体能力の強化に努めるべきだと思う」
うーん、俺ってやっぱりいらない子のような気がしてきたぞ。こいつらに唯一勝ってるのはほんの数年の人生経験だけだもんな。
「あとは、各自どんな念能力にするか……の前に、水見式、やっとくか」
汲み置きの水を桶のギリギリ一杯まで入れて、コップの代わりにする。適当に外から葉っぱを一枚取ってきて浮かべる。ちょっとデカいけどこれでも問題ないだろう、多分。
「シュート、この桶の横に手を近づけて『練』……えーと、全身の煙を増やしながら桶に集めるような感じでやってみろ」
言われたとおりに、シュートが手をかざす。多分、才能があるんだろう。こいつは知らないはずの四大行を簡単な説明だけでやってのける。
桶の水がじわじわと濁る。……いや、色が変わっている? 少しすくい上げてみると蛍光色のような半透明の黄色い液体が指の隙間を通って桶に流れ落ちた。
「放出系かぁ。バットとか持ってるから強化系の方が使い勝手がよかったんだろうけど、こればっかりはしかたないか。次、私やっていい?」
別の桶にまた新しく水を溜めて、パームが水見式を行う。やらなくてもわかるぜ、こいつは絶対変化形だ!
……と思ったら、また水が濁り始めた。こいつも放出系かと思ったが、すくい上げて見るとさっきとは違い、銀色の砂のようなものがざらざらと手に残る。えええ、変化形じゃないのか?
「具現化系か……強化系が理想だったのだが」
はいはい、クラピカのモノマネはもういいから。こいつクラピカが好きなのか? リアルで出会ったらどうする気だろう。
それはともかくとして、最後に俺が桶の水を集めて手をかざす。これで普通の水がなくなっちまったからまた汲みに行かなきゃなー、とか考えながら練を行っていると、三人の中では一番劇的な変化が起こった。
「……分裂?」
浮かべていた葉の枚数が増えていた。大きさは元の葉よりも小さいが、5枚、6枚と、最初の葉からアメーバのようにどんどん分離して増えていく。
「特質系? うそぉ、ウイングにカリスマなんかこれっぽっちもないじゃない」
うるさい、そんなの俺が一番よく知っている。けれど、水に浮かんだ大量の葉が、俺は特質だと雄弁に語っていた。
作品名:meet again 作家名:皆戸 海砂