桔梗
「そうか。すまん、庄左エ門の怪我を治療してやってくれないか?」
「挫いたんですか?」
数馬の質問に土井が答えた。
「そうだ」
「じゃあ、そこに座らせてください」
丁寧に包帯を巻いて行く数馬。
「…珍しいね。庄左エ門が怪我なんて」
「ちょっと、色々まきこまれっちゃって」
「そか…。乱太郎といえば、今日は午後から見てないね」
「そういえば…そうだね。はい、終わりました」
「悪かったな。三反田」
「いえ、保健委員ですから」
ニコリと笑い答える数馬。
「庄左エ門は少しここにいなさい。後で、迎えにくるから」
「はい」
「すまんが、庄左エ門のこと頼んでいいか?」
「はい。後、送っておきますから先生はお仕事に戻ってください」
「悪いな。庄左エ門、後でまた様子を見にくるから」
「大丈夫です。先生」
庄左エ門の言葉に苦笑し、土井は部屋から出て言った。
庄左エ門は先ほどあったことを考える。黒衣の忍者のこと。
小さな子供だったことは間違いない。抱きしめられたときにそれはわかった。けれど、盲目なのかそれとも技となのか目の瞳の色もわからない。ただ、黒衣の衣装を覚えているだけ。声も上手く思いだせなかった。それは、乱太郎が華乱と生きるための術。覚えられることは忍者にとって不利にしかならない。しかし、乱太郎は子供どうしても印象に残ってしまう。何度かあってしまうプロ忍達はともかく、一度だけの者に印象を残す訳にはいかなかった。そこで、両親に教えられたのは薬だった。その薬は調合により、人への印象を薄くしてしまう効果があった。少量のモノでも効果ああるもの。乱太郎の特製薬だ。
「…なんで、覚えてなんだろう」
「何が?」
「伏木蔵…」
「何かあったんだよね?」
「うん」
「悩んでる理由はそれ?」
「うん…」
伏木蔵に言葉に庄左エ門は頷いた。
「何があったか、聞いてもいいのかな?」
数馬の言葉に庄左エ門はあったことを話しだした。
山賊に捕まったこと、それを黒衣の忍者が助けだしてくれたこと。初めてではないにしても、あの声や感覚はまだ脳裏に焼き付いている。
「…華乱っていったんだ? その忍者さん」
「うん、華乱だって利吉さんが言ってた」
「でも、庄左エ門は覚えてないんだね? 声も姿も」
「そうです。黒衣だっただけは覚えているんですけど…」