桔梗
庄左エ門も不思議そうだった。そんな庄左エ門を見て、数馬が返した。
「それは、特殊な薬を使っている可能性はあるかもね」
「薬ですか?」
「そう。自分の印象を残さないように。特に身体的に特徴があるならね」
「ああ…そうか」
そういえば、身体が自分と同じ子供ということはわかっているのだ。それ以上の特徴を印象として残すことはできない。
「…強かったんです」
「みたいだね」
「利吉さんが言ってました。華乱に会うならば強くなれと」
「そうか…。庄左エ門は、その人に会いたいの?」
「出来れば、もう一度」
「…そうなんだ」
伏木蔵が少しだけ、声を落としたのは誰も気がつかなかった。
「庄ちゃん!」
「乱太郎」
バタンっと保健室に入ってきたのはは組で唯一あってなかった乱太郎だった。
「大丈夫なの!?」
「乱太郎、落ち着いて?」
「だって!」
「乱太郎、大丈夫だよ」
「伏ちゃん」
「そう。捻挫しただけだからね? 乱太郎こそ怪我だらけじゃないか。どうしたのさ」
「…あはは、木から落ちちゃいました」
「また…。キミもよく怪我してくるよね」
「あはは。手痛いお言葉です。数馬先輩」
「伏木蔵、乱太郎の手当してあげて?」
「はい。数馬先輩」
「乱太郎、大丈夫?」
「だい…じょうぶ」
泣き目で、庄左エ門に返す乱太郎。それに庄左エ門は少し安心する。日常という感じがするのだ。どうしてだろう。乱太郎を見ただけだというのに。
「伏ちゃん…、しみるってばー」
「…心配させる乱太郎が悪い」
「それはそうだね」
「数馬先輩までぇ…。痛いってば!」
「…じゃあ、怪我してこないでよ」
「だって、しちゃうんだもん」
「だもん、じゃないぞ?」
どうやら、乱太郎はこの頃怪我をよくしているらしい。考えてみれば、見覚えのある乱太郎は包帯を何処かにしていた。
「…乱太郎。怪我ばっかりしてたね」
「そんなにしてるつもりはないんだけど」
「してるんだってば!」
「伏ちゃん、痛いって!」
「自業自得!」
一年生二人の会話に数馬は苦笑する。庄左エ門はそんな数馬に質問をした。
「三反田先輩」
「ん? どうしたの」
「乱太郎、そんなに怪我してるんですか?」
「この1か月は、何から怪我してるね。僕も左近も伏木蔵も伊作先輩も必ず一回は手当してるかも」
「…そんなに」
「だから、伏木蔵が少し拗ねてるんだよ」