桔梗
「乱太郎、ちょっときなさい」
あれから何事もなく、時は過ぎていった。乱太郎の怪我も治り、華乱としての忍務も少しだけ減らして学園で過ごしていた。忍務を減らしたのは、知る者たちが酷く心配したから。特にきり丸としんべヱは乱太郎から離れる事はなかった。それだけ心配だったのだろう。
「山田先生?」
乱太郎は呼ばれるままに、廊下に出る。ただなんとなく乱太郎は呼ばれた内容に予測はついていた。
「山田先生なんですか?」
「今日、授業が終わりしだい家に帰りなさい」
「わかりました」
「ご両親から連絡を頂いている。外出許可も貰っているので安心するがいい」
山田に頭を撫でられて、乱太郎は『はい』と答えた。多分、今回のことについての事が父や母にバレたのだろう。今はのんびりとしている父と母だが情報網は自分以上に持っている。今回の事がバレない訳がないのだ。
「では、伝えたからな」
「ありがとうございます」
山田にお礼を言い、乱太郎が教室に入ると、は組全員が乱太郎をみた。そして、質問したのは庄左ヱ門。
「乱太郎、どうしたの?」
「ん?ちょっとね」
「…話せない事か?」
きり丸の言葉に乱太郎は笑いながらそんなことはないという。
「授業が終わったら、すぐに家に帰る事になったんだよ。父ちゃんと母ちゃんに呼び戻されてね」
「帰っちゃうの…?」
しんべヱが不安そうに乱太郎の服を握る。
「大丈夫。帰ってくるよ?」
それは、本当かどうかもわからないけど。それでも、乱太郎は帰ってくるつもりだ。それが最後だとしても。
「いつ戻る予定なの?」
「わかんない。急に呼び戻されれたし。もしかしたら、ちょっと長引くかも」
「そうか…」
周りの皆ににこりと笑いながら乱太郎は言った。出来るだけ安心させるように。
「大丈夫だって。ただ家に帰るだけだよ。ちゃんと戻ってくるよ」
「本当だな?」
「絶対だからね」
「待ってるからね?」
「戻ってくるなら、いいけど」
それぞれの言葉な乱太郎は頷いた。
授業が終わり、乱太郎は部屋に移動した。そして、帰る準備をした。そこに誰か来る気配がした。
「乱太郎」
「伏木蔵」
「庄左ヱ門からキミが帰るって聞いたから」
「うん。父ちゃんと母ちゃんに呼び戻された」
「帰ってくるんだよね?」
「皆、心配性だなあ。帰ってくるよ」